第八章 追跡者
何をして、どうしたのかはわからない。ただ、現れたという情報は三人に──特にライの心に働きかけたようだ。それまで最も馬を休めるよう勧めていたライが一転し、昼夜問わず馬を走らせるようになった。後に続く二人と疲れきった馬に気付いて休むこともあるが、心ここにあらずといった感じで、目は虚ろに空を見つめる。
今も、とロアーナは窓辺に立つライをちらりと見た。馬を王城の馬屋に預け、客人としてこの応接室に招かれ、そして今に至るまで、ライは一度たりとも仲間を見ない。大きな窓から見える街に何を探しているのか、仲間であるはずなのに、その意図も図りかねた。
「ここの王様って若いんだっけ」
部屋の調度品を覗き込みながらジャックが呟く。見事に磨かれた花瓶や装飾剣は、窓からの光を反射して眩しい。思わず触れてみたくなって手を伸ばすが、後ろから届くロアーナの声に驚いて慌てて引っ込める。
「若いみたいね。少なくともエルダンテ王よりは」
「うちのと比べちゃまずいだろ」
小さく笑いながらロアーナに向き直る。
「いつ死ぬかもわからない、もうろくじじいが」
「……口、慎みなさいよ」
腕を組んで壁によりかかる。否定しないところを見ると、彼女も同じ意見なのだろう。にやりと笑って、ジャックは窓辺から動かないライに視線を向けた。こうこうと陽光が差し込むそこは暖かな場所であるはずなのに、ライの周りだけが黒い影で埋め尽くされているように見える。その雰囲気か、その目がそうさせているのか。
傍目には調度品の一部と思えるほどにその姿は美しい。美しい反面ぞっとするほどその顔は冷たく、だから調度品に見えるのだと納得した。温かみのない肌は陶器そのものと言ってもいい。執権のお気に入りという話を茶化し半分で聞いていたが、なるほど、こういうところは似ているのか。人間らしくない部分は認めてやろう。
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