第八章 追跡者



第八章 追跡者


 エルダンテの王都も整備の行き届いた街だが、リファムの王都を前にすると、その自負も霞んでしまいそうだった。

 道を覆う石畳、清潔な街、活気溢れる店に市場。行きかう人々の顔に影は見当たらない。自身の生活に満足し、着飾る余裕もある女性たちは美しかった。これが数年前までは衰退の一途を辿っていた国の王都とは思えない。

 先王を弑し、自らを王として、矢の勢いで国を立て直していったリファムの若き王の手腕を随所に目にする。エルダンテではそれこそ、その勢いを虚勢と嘲る声も多かったが、実際、目にしてみるとそんなものは一笑に付されるだろう。自らに無いものを妬む声と言い返されても文句は言えまい。

「……すげ」

 それまで腹が減っただの死ぬだのと連呼していたジャックが、思わず言葉を飲み込む。なるほど、彼も真っ当な神経を持つ人間なのだとロアーナは妙な納得をしていた。

 『時の神子』を捕えるよう要請したエルダンテに、了承の旨を書いた書簡がリファムより送られてきたのは数日前のことである。予想よりも早いリファムの対応に当初は何かしらの陰謀を疑いはしたものの、神子を捕えよというリミオスの意志は固かった。それならそれで返り討ちにする気持ちで行けと言ったのは、国軍の将軍だったろうか。使者を送ると言ったエルダンテに対し、リファムの対応はまたしても早かった。

 内海に近いエルダンテの王都から、リファム内陸に位置するリファムの王都までは遠い。どんなに早駆けの馬を使おうとも七日はかかる。南側の良い道を使ったが、馬の体力の消耗も激しかった。だが、その間に耳にした噂が彼らの足を速める。

 『時の神子』が現れた、と。

- 159/862 -

[*前] | [次#]

[しおりを挟む]
[表紙へ]



0.お品書きへ
9.サイトトップへ

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -