第七章 一歩



 やや憤然としながら、しかし急ぐ旅でもある。未だ緑の丘の向こうに見える王城から視線を離さない背中に声をかけた。

「行きましょう。神子はまだリファムにいるかもしれないわ」

「……ああ」

 神子、という単語に耳が動き、彼は聳え立つリファムの王城から目を離した。

「ロアーナ、王都に入ったら何か食べようぜ。腹減って死にそうだ」

 馬を動かし出した彼女を振り返り、ジャックが軽い調子で言う。それに対してロアーナは厳しく言い返した。

「なら、いっぺん死んできなさいよ。そうしたらその頭も少しはましになってるんじゃない?」

 毒をはらんだ物言いにジャックはつまらなそうに舌打をし、更に後ろからゆっくりと馬を動かす男に声をかけた。

「お前はどうよ、ライ」

 ライは色素の薄い瞳を一瞬ジャックに向けたが、「別に」と言っただけですぐに視線を逸らした。つれない態度の仲間にジャックは鼻を鳴らして、小さく悪態をつく。それを咎めながらロアーナは馬を早め、しかし、気になって後ろを振り向いた。

 リファムの王城を見つめるライの目は、何も映してはいなかった。



七章 終

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