隊長の言い分はこうだ。

曰く、王族は普通子孫を残すものだと思っていた。
曰く、つまり王族は異性と結婚するものだと思っていた。
曰く、よって告白は冗談だと思っていた。
曰く、ついでに言うと私のことはただ単に下穿きが好きな変態だと思っていた。正直今も思っている。


「だからこれを渡してどうにか解放してもらおうと考えていたんだが」


そう言って隊長は綺麗な紐を手渡してくれた。いや紐じゃない、異様に上質な赤の紐パンツだった。高かった、と遠い目をする隊長には少し申し訳ないが、私このパンツいやもはや紐に特に魅力を感じない。だって私はパンツが好きなわけじゃない。


「私がッ、私が好きなのは隊長のパンツだけなんです……ッ!」


新品のパンツなんかいらないんですと、隊長のたくましい胸板を光速で撫でまわしながら必死で弁明する私。ティーの紅茶を淹れなおす女騎士。無言で私の手を叩き落とす隊長。女騎士の頬にお礼のキスをする愛娘。何だろうかこの差は。


「そもそも隊長これ買うお金どこから出したんですか隊長今無職じゃないですか」
「ん? ああ、退職金からな」
「そ、そこまでして私の城から出ていきたかったんですか……?」
「ああ」
「まさかの肯定!?」


あまりのショックにふらつく私。なんということだ隊長がそんなに私を嫌っていたことにも気づけなかったというのか、私は隊長のストーカーじゃなかった守護天使失格だ!


「……ストーカー?」
「わあああああ私の心を読まないでください隊長ぉ!」
「お前が口に出しているだけなんだが」


なんということだ衝撃のあまり口に出していただと!? 誰か針と糸を持て! もうこの口縫っちゃうから! こくおうはこんらんしている! 落ち着け、隊長はそう囁いて左手を私の頭に添える。


「え」
「お前を嫌っているわけではないから安心しろスペンサー」


隊長は左手で私の前髪をくしゃりと撫ぜて、ほんの少しだけ口角を上げて、笑った。出会ってから初めて、笑った。私の心臓が自分の存在を思い出したように爆音を鳴らし始める。じゃあなんで出て行きたがったんですか、嫌いじゃないということは好きなんですか期待してもいいんですか、たくさん聞きたいことはあったが、言葉が出てこない。顔が熱い。頭が働かない。身体が動かない。うごかない。


また明日、そう言って自分の部屋に帰っていく隊長を、私はただ見ていることしかできない。心臓がただうるさくて、顔がただ熱くて、身体が動かなかった。隊長が、笑った。笑った。


その晩は動悸がおさまらなかったので、隊長のパンツを被って眠った。しかし興奮して余計に眠れなかった、まる。




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