硝子同盟

半分だけの天使にキス


回想。
(下校の話。)

ちょっとだけ高く位置する轟の横顔を盗み見るのが好きだった。
いつしか時間を合わせるようになっていた登下校。あまりお喋り上手ではない、寧ろ口下手な私達の間に言葉はほとんど生まれないが、降りる沈黙は心地良い。きっと人にはわかってもらえない、でもそうだっていい二人だけの優しい時間。
コンクリートに落ちる轟一人だけの影を振り返る。私達は二人いる、影にまで何かを求める必要なんてなかったはずだろう。ちゃんと二人だ、それだけでいい。
私の隣には、私には到底似つかわしくない、髪色も瞳の色も半分だけの綺麗な少年。きっちり、ぱっきり、と半分で。時折抜ける風に境界線の乱れる髪が悪戯な風にされるがまま、ふわりと浮く。私の目に映るのは轟の左側だから大部分を占めるのは緋の色の髪だけど、風に持ち上げられるもう片方の雪色も頭のてっぺんを彩るように見えている。
「なまえ」と突然呼ばれたものだから、えっ、という私の声は裏返ってしまった。

「何、俺の方見てるんだ。さっきから」
「い、いや……。轟、綺麗な顔してるよねって、思って」
「……やっぱ気になるか」

と……、と轟の指先が目元から頬の変色した皮膚を私の目から隠すようにその頬に置かれた。何か訳ありだと、そう真っ先に人に思わせ視線を逸らさせる痛ましい火傷跡によって、自分を醜い存在だとでも思っているのか、彼は。
透き通る碧玉の、綺麗な左眼を持っていながら。こんなにも神様に愛されて置きながら。
「そんなこと、」と零したのは本心だった。

「お前見てるの、左だろ」
「そうだけど、だから? お、おかしい……?」
「おかしくはねえけど。……変な奴だな」

二分の一だけのくちびるが三日月を作るように少しだけ口角が持ち上がり、曲げられていた。ただでさえの淡い微笑を横から眺めていることが惜しい。結局彼は私がおかしいみたいに言いたいようであるし。
顔の左側を覆い隠そうとする轟の手。その手に私は自らの手で触れた。ちょい、と指の先の方でつついて片頬から離すように促して。

「ねぇ、見せてよ。隠さないで」


2017/07/18

- ナノ -