硝子同盟

絆創膏でも塞ぎ切れない


正午前の太陽が作る色の薄い影が手元に落ちた。授業と授業の間の隙間を埋めるように作られた数分間の休息。耳に纏わりつくような解放を喜ぶ生徒達が作る騒がしさは、天下の雄英高校といえど変わらない。
左右で色の揃わない双眸も髪色も、視界の端で揺れるだけでもこちらに存在を認識させるには十分すぎた。秀麗な顔立ちも相まって、鮮烈に目に飛びつく容貌を持つ少年だが内面はそこまでの主張は無い。そのアンバランスさで、ある意味バランスが取れているのかもしれない。人より少し、轟焦凍という人間を知る私は彼を知覚して数舜後、ゆうるりと視線を持ち上げる。顔を上げれば、ばち、とぶつかる視線同士。

「なまえ、お前確か絆創膏持ってたよな。貸して貰えねぇか? ノートで指切った」
「え、うん。ちょっと待って」

轟の肌に入ったごく小さな割れ目から滲み出す血の赤が見えた。止血程度であれば私の個性でも施せるが、その方法が男子相手だと少々恥じらわずにはいられない。それでも何とかしてあげたいと思ってしまうのはヒーロー志望の性なのだろう。そんな風についつい世話を焼きたくなってしまうものだから、だけが理由でもないが、絆創膏は常備しているのだ。バックパックの小ポケットを開き、薬品類と同じ入れ物に収納してある幾つかの絆創膏の中から切り傷に対応したサイズの物を選び取る。はい、と手渡すと静かな謝辞が返ってきた。すたすたと自分の席に戻る轟の背中を横目で追いかけていると、入れ替わりにお茶子ちゃんがひょっこりと顔を覗かせる。茶のボブヘアに、輪郭に、可愛らしい瞳、と全体的に丸みを帯びた、誰かの言葉を借りるならうららかな雰囲気を醸し出す姿と面持ちでいる、そんな彼女の声は私に向けられたものであったらしい。

「前から思ってたんだけど、轟くんとなまえちゃんって付き合ってるみたいだね。なんで轟君、なまえちゃん絆創膏常備してるって知ってたんやろ……」

八百万辺りに創り出して貰う方がずっと良い物が手に入るし、席も近いし、恐らく早い。一切の迷いなく私に持っているかと尋ねて来る轟は、僅かながら不自然に見られてしまったらしい。

「……みたいっていうか、付き合ってはいたよ。だからじゃない?」
「付き合ってた!?」
「う、うん」
「聞いてないよ〜!」
「あっ、ごめん。大分前のことだし、いいかなって。元彼、的な、そういうんだよ」

それとも言った方がよかった? 私が首を傾げて訊くと、彼女は。うーん、と漏らす可愛い唸りに合わせて微妙という風に表情を変える。もし聞いていたら、私のことが羨ましくなっていたかもしれないから言わないでよかった、とそう言う彼女に私は「なにそれ」と笑みを零す。

「私も今そういう人いないもの。羨ましいも何もないでしょう?」
「でもなまえちゃんには経験がある! 付き合うってどんな感じなん?」
「…………、彼氏彼女って感じ?」
「わかんないよー。たっぷりためておいて」


2017/04/27

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