硝子同盟

わたしがまだ神様の子どもだったころ


回想。
(お参りのお話。)

ふわ、と色を与えられた自分の吐息が目に見える形となって風に舞う。緩やかな夜風に千切れた雲をたなびかせる夜空が、皮膚を刺す寒さをより一層のものとして感じさせた。
二年参りなんて小洒落た発想は、去年は年を越すまで湧いてこなかったから一年越しの小さな目標が叶って少しの達成感が胸にある。超が幾つもついてしまうほどの夜型である上に日光に酷く弱い肌で全身を覆われている私にとって、この二年参りは称賛に値する文化だ。だけど共に来た轟は違うようで。ふわ……、と零したあくびを煙の形にしながら宙に巻き上げている。私が彼のテンションを奪い取ってしまったのだろうかと心配したが、思えば彼は元々快活な人間では無かった。そのうえにこの時間帯も重なる。軽率な誘いを頭の半分でだけ呪い、半分でだけ喜んでいた。私よりも一足先に雄英の推薦入試を控える身だというのに息抜きになるからと言葉をかけてくれた轟は特に人付き合いの面において器用とは言えないが優しさを伝える手段を人より知らないだけだと知っている。
中学最後のお正月、参拝に訪れた神社と言えば願うことなどほぼ決まっているも同然だ。深夜にもかかわらず御賽銭箱までにずらりと作られた長い列を一瞥し、口を開く。

「長いね、列」
「あぁ」
「どうする、知り取りでもする? ……って中三にもなってさすがにそれはないか」

はは、と作った意味の無い笑いは轟が最も苦手とするもので。
――この時の私は、まさか高校に上がってまで林間学校のバス内でしりとりをする羽目になる未来を知らずにいたのだ。

「……陸地」
「え?」
「やるんじゃなかったのか、しりとり」
「ほ、本当にやるの……。え……っと、じゃあ、血反吐」

明らかにチョイスおかしいだろ、というような眼をされてしまったが、血液自体が私にとって比較的見慣れてしまった身近なものなのだから仕方がない。そう言いたげな轟だって案外選択が平々凡々としているのだからちょうどいいでしょう。

「この歳になると終わらせるのも大変だね」
「ね……眠い」
「い、いや今のは違くて、」
「手袋」
「だからぁっ」
「冗談」
「……」

割り込むように、がらん、がらん、と前の人が揺すった鈴が願いを受けて頭上で鳴る。もう次だ。「ねぇ、轟は、」と切り出す言葉を一度区切って、少々迷った後で「……やっぱりなんでもない」と零に戻した。他人の祈りなんて問うだけ野暮だ。


2017/07/09

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