15)諦めきれないから願うのか


 あの後、洗い浚いをカンナに話してもらったところによると。
 
 ミノルの父親は完全な冤罪で、むしろ彼は軍上層部が国庫を横領しクーデターの資金にしているのではないかと疑っており、犯人をあぶり出す為に態と騒ぎを起こしたのだという。
 
 秘密裏に協力を求めていた信頼できる人に後を任せて、自分が身体を張った。
 
 クーデターの証拠を持っていると言えば犯人は慌てて侯爵の身柄を押さえに来る。
 
 だがその肝心の証拠は息子の手に渡っており、息子自身は逃亡となれば捕まっても簡単に殺される事はない。
 
 そして息子のミノルを始末しようと出てきた下っ端から芋づる式に黒幕まで根こそぎ検挙しようとしたのだ。
 
 しかしミノルが予期せずカナエに助けられ花隈に匿われた事で、相手も出方を窺っていたので時間を食った。
 
 その間に王都の方で首謀者達は見事捕えられたのだが、肝心の横領された金品は協力者の女と共にさっぱりと消えていて。
 
 その女がいくら洗い出しても痕跡が全く見当たらず打つ手なしと思われていた所に、事情を知ったイチトが一芝居打ったという事らしい。
 
 女は花街の娼妓だったのだから、幾ら王都を探し回っても出てくるわけもなかった。
 
 ちなみにミノルが持たされていた時計は、起爆装置が付いていなかっただけでなく、そもそも何の仕掛けもないただの時計だった。
 
 それもそうだ。侯爵は端から証拠など入手しておらず、ただの出任せだったのだから。
 
 息子さえも踊らされた一人。
 
 一番被害をこうむったリオンは開いた口が塞がらず、説明を終えたカンナに真顔でこう言った。
 
「店の修繕費は侯爵とイチトさん、どちらからふんだくったもんかな?」

 これに対するカンナの答えは「どっちにも二重請求しとけ」だった。
 
 カンナだって花街から王都へ走らされ、王都でも散々問題を突き付けられて頭に来ていたのだろう。
 
 
 蓋を開けてみれば大した問題に発展する事もなく尻すぼみな結末で幕を閉じた今回の件。
 
 大事にならなくて良かったと胸を撫で下ろしたのは多分、カナエとミノルくらいのものだろう。
 
 無事と言っていいのか、一応件は解決を見たわけで。
 
 侯爵の息子のミノルは当然王都へと帰らなくてはならない。
 
「いやです!」
「そんな堂々と言ったって、ダメなもんはダメなの。ミノルは帰るの」

 ミノルの腕をきつく掴んで駄々をこねるカナエに、リオンが子供に言い聞かすように答える。
 
 ミズキは呆れているし、店の女達は苦笑。
 
「だって王都に帰っちゃったらもう簡単には会えないじゃないですか! 折角友達になれたのに!」
「ミノルが困ってるだろ、コイツはこれでも侯爵家の人間なんだから色々と王都で仕事もあんだから」
「あんたにだけは、これでもとか言われたくない」

 ミズキの説得が気に入らなかったのか、ずっと黙っていたミノルが変なところで口出しをしてきた。
 
 カナエの我が侭は困ったものだが、別れを惜しんで貰えるのは嬉しいので彼としては無碍には出来ないのだ。
 
「カナエちゃんの言い分も分かるけどねぇ。ここじゃ同じような歳の子いないもの」

 フォローする芸妓に、それも一理あるなとリオンが頷いた。
 
「だったらカナエも王都に行くか?」
「は?」

 聞き返したのはカナエだったが、他の全員も同じく疑問符が出るような表情をしている。
 
 リオンは顎に手を置いて何度も頷く。一人で納得しているようだ。
 


|





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -