07)縋る願いを撃ち抜いて

 その後。
 
 四人は顔を突き合わせて、ああでもないこうでもないと時計の安全な解体方法を模索した。
 
 結果から言うと、方法は思い浮かばなかった。
 
 起爆装置というのが一体どの程度で作動するのか分らない以上、迂闊に弄る事も出来ない。
 
 ミノルは多少乱暴にしても問題ないと言っていたが、蓋を開けてしまうのはどうだか知らないという。
 
 ホダカ一人を犠牲にするという方向でこじ開けてみようという案も持ち上がったが、他でもない本人が断固拒否したせいでそれも上手く行かず。
 
 結局は現状維持のまま置く事となった。
 
 
 昼過ぎから降り出した雨は夕方近くには本格化してきた。
 雨脚が強くなり、室内まで独特のしっとりとした空気に包まれる。
 
「ああ今日は開店休業になるかもしれないわね」

 支度をしていた芸妓が、空を見上げながらぽつりと呟いた。
 
 大部屋で皆思い思いに化粧をしたり着付けたりしているが、客足が遠のきそうな天気のせいか、あまり気合いを入れているようには見えない。
 
「そうだわカナエ、こっち来なさい。お化粧してあげましょう」

 花隈でも古株のサイが思いついたように言った。
 他の女達も面白そうだと、自分たちの道具を持ち寄って、部屋の隅にいたカナエを鏡の前まで移動させる。
 
「え、え? でも私」
「客取りをしないからと言って、着飾っちゃあいけないなんて決まりはないわよ」

 いつもカナエを妹のように可愛がってくれるサイだが、なかなかの食わせ者である事を店の人間は誰しもが知っている。

「お客の代わりに、ミノルくんを喜ばせてあげなさいな」
「いや別にミノルは喜ばないと……」
「じゃあ驚かせてやんな」

 何に対してか闘志を燃やし始めた芸妓達に逆らう意欲もなく、カナエはされるがままの人形になる覚悟を決めた。
 
 
 幾らかの時間が経過し、芸妓達は満足気に鏡を見やる。
 
「どうよ」
「……窮屈です」
 
 肩上げ・袖上げされた色鮮やかな振袖に、胴に巻きつけられた帯はだらりと長く垂れている。
 短い髪では結い上げられず、耳に牡丹の花飾りが掛けられた。
 
「いや、それでも随分ゆるくしてるんだけどね。慣れてない男でもすぐ脱がせられるように」
「すぐ脱ぐ事前提で着付けしないで!」
「ていうか」

 カナエを静かに遮ったのはリオンだった。
 その声には少なからず怒気が伺える。
 
「どうして私まで着替えさせられてんのかな」
「ついでですよ、ついで」

 運悪くカナエが遊ばれているところに大部屋に来てしまったリオンも同じように捕まってしまったのだ。

「片手間に店主で遊ぶな」

 まったく、と悪態はつくものの大人しくされるがままになっている。
 
 今日のこの天気のせいで彼女達が暇を持て余しているのだと解っているからだ。
 
「二人とも髪が短いのが難点よねぇ。鬘でもかぶる?」
「たかが遊びで大層な事しなくていい」

 面倒臭そうに手を振った。
 
 芸妓達は皆一様に長い髪を綺麗にまとめ上げているが、対してリオンとカナエは男のように短い。
 
 それは表に出ない者としての意思表示だ。
 客取りをしない、座敷に上がらない、裏方に従事する者だと一目で分かるように。
 
 リオンは楽だからこの髪型を気に入っているが、カナエはどうだろう。
 
 年頃の子だ、髪を伸ばしお洒落をしたいと思っているに違いない。
 
「で、何で私の帯は前で結んであるんだ」
「だって。前にしてる方が解いた時に興奮するってホダカさんが」
「よし分かった。今度会ったら帯で吊るす」

 


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