04.地獄の一丁目

「……どこへ?」

 数秒たってから倖が引きつった声で訊く。
 やっと彼女も危機感というものを持ち始めたらしい。

 エンジン音がやかましく響く車内、たった四人の乗客は幼すぎる運転手の回答を待つ。

「そりゃ勿論あっちの世界ですよ、お客さん」

 あっちの世界。ここじゃない別の?
 もしかしてそれって……。
 そんなものは一つしか思い浮かばなかった。

「死後の世界ぃー!?」
「あの世!?」

 俐音と倖の声が合わさる。

 なに馬鹿なことを言っているんだこの子どもは。
 そう冗談にとる事が出来ない。
 何故なら少女は四人の命を奪える位置に座しているのだから。

「みつ、光城くん!」

 倖は翔に目配せをして彼が頷くのを確認すると素早く立ち上がった。

 何をする気だろうかと俐音が顔を上げると、彼女の瞳が少し紅みが差しているのに気付いた。
 だがそれを問う余裕も今はない。

「あー駄目ですよお客さんきちんと座ってないと。誰かさんみたいにゴロゴロ転がっちゃうんだから」
「お前のせいだろうが!」

 忘れたい醜態を思い起こされて俐音は顔を真っ赤にして憤慨した。

「ちょっとごめん、どいてもらっていい?」

 俐音達のやり取りに笑みを零しながら、いつの間にか移動してきていた翔が尋ねる。
 彼の横には真人もいた。

 俐音を立たせると翔は左右の手でそれぞれ前後の座席の背もたれを掴み、力を入れて身体を支えると両脚で窓を蹴った。

 ちょうど俐音が座っていた場所は非常ドアになっていて、緊急の場合には開けられるようになっていたのだ。

 非常ドアはドアコックを操作して開けるものだが素人の翔にそれが分かるはずもなく、探す手間も惜しいので自分に最も適した方法で抉じ開ける事にした。

 翔ならではの、一番手っ取り早い方法。

 一度蹴っただけでドアはひしゃげ、壁との間に隙ができそこから外がチラリと見える。

「み、見かけによらずテコンドーの選手のような脚力をお持ちで……」
「つーか……本物の選手でも無理だろ」

 翔は一体何をするんだろうとただ眺めていただけだった俐音と真人は、彼の桁外れな荒業に息を呑んだ。

 華奢な翔からは想像も出来ない剛力だった。

「光城くんそっち頼むね」

 倖は当然知っていたようで、そう言うと前方に駆け出した。
 立っているのも難しいほど不安定なはずなのに、絶妙な重心んの掛け方で体勢を崩すことなく進んでいく。



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