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崇雷が啖呵をきって、この場はお開きとなった。崇雷の情報を聞いた瞬間に席を立った石切丸。それに続くかのように他の男士達も席を立つ。各自の部屋へと向かったのだろう。その部屋は男士達のための空間であり崇雷はわざわざそこに立ち寄ろうとはしない。ビジネスライクな付き合いをしたいと思ったからプライベートにまで口を出す趣味はないといったところだろう。 そしてすぐに再び崇雷と三日月のみの空間となった。そんな空間に長く居ても無駄なので二人は審神者の部屋に向かった。そこは実に簡素なもので前任の審神者の雰囲気を全く感じさせないものであった。 崇雷はさっさ寝てしまおうと、布団を敷いた。それから畏まった服を投げ捨てジャージに着替える。締め付けのないリラックスできる服は偉大だ。 「結局三日月は出てこなかったか。」 「出てこなくて良いぞ。崇雷には俺がいるではないか。」 「いや、よそ様の三日月と俺の三日月を比べてどれだけ俺の三日月が秀でているか悦に浸ってやろうと思っただけだ。」 「崇雷っ…抱いて!」 なんて嬉しいことを言ってくれるのだ。三日月は目をハートにしながら崇雷に抱きついた。それに応えるように崇雷は三日月の髪を撫でそれから布団へとダイブした。 「よっしゃバチこい!クレバーに抱きしめてやんよ!と言う訳でおやすみなさい!」 「…ん………おはよ。三日月。」 「起きたか主。…夢見は大丈夫か?」 「…夢見?…うん。夢、と言っていいのか。よくわからないものなら見た。」 「よくわからないもの、と?」 「ああ、どこまでも真っ暗な夢だった。声を発しても反響しなくて、まっすぐ歩いても何もなかった。無、と言えばしっくりくる感じだ。悪夢というものではなかったな。俺はお前が夢見について聞いてきたことがよくわからない。」 「それは、崇雷が影響を受けやすいからなぁ。」 「そこまでデリケートじゃ!……デリケートだわ。ここブラック本丸だもんな…。」 「そうだぞ。。して、今日はどうする?」 「どうする…とりあえず、朝ごはんを食べに行こう。」 「ではそろそろ起きるとするか。」 掛かっている布団を三日月はどかして、腕の中にいた崇雷を解放する。上半身を起こして背筋を伸ばす。軽く体をほぐしてから着替えるために立ち上がった。しかしその間も崇雷は寝ている姿勢から微動だに起きようとしなかった。 「ん?主?どうして動かない?置いていってしまうぞ?」 「…いや、…その、あのだな?」 言葉を濁す。が、動かない。動きはするがもぞもぞと、動くだけで起き上がらない。 「どうした?主らしくない。はっきりと申せ。」 「体に…力が入んない…ぽいです。三日月さん。」 「…冗談はもう少し余裕のあるときに言って欲しいぞ。」 「いやいや、冗談でなく。本当に力入んないんだって。」 「起きて着替えようぞ。」 ほら、起きた起きたと三日月が崇雷の両腕を引っ張るも頭がついてこず、首が後屈した状態で上半身が上がった。それから三日月が崇雷の腕をパッと離すと突然支えを失った崇雷は受身もとらず、とれず背中から布団へと落ちていった。 「ぐぅ、ぉぉぉ…やると思った。やると思ったが後頭部真面に打ったぁ…うぐぐぐ…。」 「…すまぬ。受身を取ると思っていたのでな…。」 「けど、信じてくれたか?」 「信じるしかなさそうだな。どれ崇雷よ。着替えさせてやろう。浴衣で良いか?」 「いや、もうこのまま運んでくれよ。お前にそこまで手を煩わせたくない。」 「いやいや、これも初期刀の勤めの内よ。どれが良い?俺のおすすめは紺の浴衣に黄色の帯ぞ。」 るんるんと三日月は箪笥の中から浴衣を取り出してきた。勿論、自身をイメージさせるような浴衣の柄に帯。ペアルックだなという幻聴が聞こえてくるかもしれない。 「いやいやいや、着替えさせなくていいって。このままでいさせてお願い!」 「しゃんとせねば他の男士に示しが付かないだろう。ん?これまた珍しい服もあるようだ。こっちも着てみてほしいぞ。」 三日月は着替えさせる気満々で手をワキワキと動かしながら近づく。 「い…いや…三日月。怖い…。」 「怖くない。怖くない。ほら、崇雷、天井のシミを数えてる間に終わるから。」 「待って。それ、ちょ、ア゛ッー!」 ――暗転―― 「はー。すっかり俺色に染まったな崇雷!爺大満足!」 三日月は手とり足とり腰とり何とりかくかくしかじかと、崇雷の着替えを実行した。満足気な三日月を隣に紺色の浴衣を着替えさせられた崇雷が転がる。 「うっうっう…お婿に行けない。」 「何を言っておる。崇雷。崇雷の永久就職先は俺の処ぞ。爺のここ、空いておるぞ。」 「うわーい。三日月イッケメーン。」 「そうだろそうだろさて、茶番はここまでにして朝餉を食べに行こうぞ。」 「相分かった。と言う訳で俺を運んでちょーだいね?旦那様。」 「了解まいはにー。俺の背に負ぶさ…れ。」 負ぶされ、と崇雷を担ごうとしたが、三日月は自身の大きな失態に気がついた。背負ったら必然的に崇雷の生足が着物の裾から出てしまうと言う事に。三日月は思わず言葉を失い、動作を固めた。 「ないんだなバァカ!浴衣を着せちまったからな!俺の魅惑の生足が御開帳すっぜ!?いいのか!局所的なハニーフラッシュすんぞ!おぶさったらな!どうだ!ザマア!俺を姫抱きして腰を悪くしろ!」 「ぐ…っ崇雷のおみ足を他の者らに見られるのは…っ崇雷にはプライドと言うものはないのか!男なのに姫抱きをされるという屈辱がないのか!」 「ああ!無いね!お前にならなんだってされてももういいわ!」 今更恥ずかしいも糞もあるものか。着替えさせられているんだぞ。姫だき如きでウダウダ言うような崇雷ではなかった。そんな漢気全開の崇雷に三日月は頬を赤らめ表情をにこやかに崇雷を姫抱きした。 「爺感激!仕方あるまい。どれ、運ぼうか。」 「おう。よろしく頼む。」 |
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