二人の少年が外に飛び出したとさ、 | ナノ


06


ゲートを潜り、着いた本丸は、特に特記すべき点の無い本丸があった。

「んあ?…これ、本当にブラック本丸か?」

「間違えて違う本丸に来た…ということではなさそうぞ。」

この本丸の名称を調べてみると、確かに目的である本丸であった。しかし、目を疑う。教科書に書かれてあるブラック本丸の例とは、かけ離れたものであるからだ。入口を通り、本丸内を無断で入る。予めもらっていた資料の地図を元に、大広間まで目指して踏み入った。
片手にブラック本丸の参考書を開きながら、ブラック本丸の特徴を見てみよう。

一、神気を感じてみよう。ドス黒く、重たい感じはしないかな?

「しないな。普通だ。」
「ああ、普通だな。刀剣男士がいないということではなさそうだ。きちんと現存してる男士の神気をヒシヒシと感じる。」

二、庭、特に畑の様子を見てみよう。きちんと整備されているかな?

「荒れてないな。雑草もない。」
「ふむ、ここの本丸の審神者は花で目を楽しむよりも石庭を好みとする人間だったらしいな。これまた見事な石庭だ。」

三、馬小屋に行ってみよう。馬達は元気かな?

「元気だな。すげぇいいな。毎日梳いてんのか?俺の髪もこれ梳いてる奴に梳いてもらったらサラッサラのツヤッツヤになるかな。」
「主、助けて。俺の髪飾りがロックオンされた。毟られる。」

四、資材庫に資材を数えに行ってみよう。きちんと管理されてるかな?

「…えーっと、何個?ひーふーみー。」
「ざっと見ても、枯渇しているようには見えないな。これで枯渇していると宣うなら全ての審神者に謝らなければならんだろう。」


その後、特徴についてなぞってみたが、当てはまることがなく、審神者は戸惑いからか持っていた本を思いっきり床に叩きつけた。

「あ゛ー!もう!なんなだよこの本丸!意味分かんねぇし!これでもブラック本丸か!?政府の奴が既に整備してあったあとか!?」

「落ち着け主。政府が介入してるとは考えられんぞ。そのような事後処理を役人風情がするとは考えられん。」

「だったら余計に謎なんだよな。ブラック本丸の特徴にまったく掠らない。」

「しかし、主よ。一つ、見落としているぞ『零』がある。」

三日月は叩きつけられている本を拾い上げ、先頭のページを広げて審神者へ見せる。
『一、』が記載されてる前に、『零』と言う項目があった。『一、』から始まるものかと思っていて飛ばしていたらしい。


零、刀剣男士の姿が本丸に入った瞬間見れたかな?歴史修正主義者の襲撃に備えて門番をしている男士がいることは常識だよね?


「…居たか?」

「いや、居らぬな。この本丸に入ってから、神気は感じるが、姿は見えず。」

「だよなー。とりあえず、ブラック本丸ではあるな。元々分かっていた事だが、こんなに当てはまらない本丸…いったいどういうことだ…。」

「とりあえず、呼ぶか。」

「ああ、自己紹介から始めねぇとな。つっても、教えれるのは微々たるものだがな。」


崇雷は目的の大広間へ着くと、上座に座り胡座をかいた。それから拳を畳に置き、軽くお辞儀をする姿をとった。三日月は崇雷の隣に寄り添うように跪坐の姿勢をとる。
崇雷は深呼吸をして息を整える。それから口を開き、音を発した。男だとバレてしまわないよう、喉を絞り、少し高い声を出す。

「新たな審神者が参上仕った。貴台らにお目通り願いたい。」

声を張らずとも、審神者が男士の耳へ自分の声を届けたいと思えばの声は刀剣男士の耳に届く。強制力は無い。この言葉を無視しようとすれば無視できる。誰も来なかったらどうしようかと少々不安を抱きながらも崇雷はその姿勢を崩さない。いつ誰が、部屋に入ってきても真正面を見据えることはしなかった。そんな体勢を10分程度続けていただろうか。一人の刀剣男士が広間へと入ってきた。それに続くかの如く、次々と入ってくる。それから足音が途切れ、戸が閉まる音がした。集まれる男士は集まり終わったということか。

「…君が、新たな審神者かな?私は石切丸という。この本丸の近侍を務めている。集まるのが遅くなってしまったが、この本丸にいる神は皆、貴方を歓迎する」

静まり返っていた広間に声がする。それは下座からの声。そして自身の名を口にした。石切丸。大太刀であり、作られた時代は平安。年功序列と簡単に考えて、近侍になっているのだろうか。

「この審神者、貴台らにお教えすることのできる名はございませぬ故、好きなようにお声掛けください。不便なようでしたら審神者、もしくは字名の恵とお呼び下さい。」

「丁寧にすまないね。人間側のしきたりも知っているつもりだよ。それを責めるつもりはない。」

「お心遣い感謝致します。この度は前任の審神者の不幸をお悔やみ申し上げます。」

「あ…ああ、私達の力及ばずこのような結果を招いてしまい、大変迷惑をかけた。」

「貴台らのせいではございません。お気に止める事無き様。聞けば前任は貴台らを酷使していたとか。」

「まさか!…そのような事実はないよ。前任の審神者は私達には良くしてくれていた。証拠にほら、私達は無傷で、内番もきちんと機能している。」

「…そのようで。」

「出陣も無理もない。演習でも恥じる結果は出していない。」

「そのようで。」

「資材も余裕がある。」

「そのようで。」

「だから審神者が居なくても正しく機能できているよ。」

「そのようで。」

「だからブラック本丸などという定義からは外れているだろう?」

「そのようで。」

「私達は前任の審神者よりこの様に私達だけでこれだけの機能を動かしてきたんだ。」

「そのようで。」

「それなのに歴史修正主義者達が攻めてきて、前任をなくす結果となってしまった。」

「…そのようで。」

「本来ならこんな危険な本丸に新たな貴重な審神者殿が来ることは本当に心苦しいものがあるんだ。」

「そのようで。」

「だから新たな審神者は寄越さない様、政府には頼んだのだが、このようなことになってしまった。」

「そのようで。」

「……ああ…だから…。」

「……。」

「……。」

「そのようで、それが、貴台らの策略ですか?そんなにも人間を近づけさせたくないようで。」

「…は?」

途中から真剣に話を聞くことを放棄していた崇雷が漸く違う言葉を口にした。策略か?と。前文の会話からそう言った言葉が出てくるなんて予想がつかなかった石切丸は間抜けな声を出した。

「大変失礼な事を申し上げますが、ご容赦くださいませ。」

「…続けたまえ。」

「ありがたく。何故、ブラック本丸の定義をご存知なのですか?ブラック本丸の定義は審神者であれば熟知しているでしょう。政府から取締を受けないよう。自身が審神者を続けることができるよう。貴台らを堕とさないよう。」

「それは…。」

「何故刀剣男士の貴台が細々と把握しているので?貴台らはそのようなこと、把握するべき事ではないでしょうに。」

「だから…。」

「そして、定義は本を読まなければそこまで把握しきれないはずですが、本を読みました?このような分厚い書物、軽く読んだだけで把握はできないでしょう。」

「…っ。」

「何故、本を読めたのですか?審神者の部屋からは門外不出とし、現代のものではない男士らの目には触れないようにとしてるはずですが。勝手に審神者の部屋を物色しましたね?」

「……。」

「何故、そのような信頼度の築けないような行為を?」

「……。」

「それから何故、石切丸が近侍をつとめておいでで?年功序列、神格とでも考えましたが、よく考えれば三日月がつとめているはずでは?この本丸には三日月が居ると、聞きました。同じ三条でも、三日月の方が適役のはず。」

「……。」

「何故、この場にいらっしゃらないので?本丸に居る刀剣男士はここに全員集まった、と貴台はおっしゃりましたが、それは嘘で?」

「……。」

「何故?この場に現れることができない理由でも?見れば小狐丸も鶴丸も…貴重な太刀達がこの場にいないようですが?」

「……。」

「何故、何故、何故?何故ですか?お答えくださいな。つつけばいくらでも出てきそうですね。愚策士の石切丸様。」


ほれほれと、突く。なにこれ楽しいと思いながら崇雷は煽っていく。崇雷の言葉に適切な答えを口にすることができない。口をぱくぱくと空気を吐くが音が乗らない。崇雷が疑問を言い切ったあと、人が変わった様に石切丸は言葉を叩く。

「っ…下でに出れば抜け抜けとっ!」

「…あ?」

「ああ、しまっ…!」

「素が出てしまっておりますが…?案外口が汚いのですね?御神刀のくせに。」

私達の本丸に人間なんて不要なのに、人間め、人間め!呪ってやろうか!」

「主、言葉を挟ませてもらうぞ。我慢ならんぞ!控えろ痴れ者が!」

石切丸の言葉の荒れ方が三日月の許容範囲を超えたのか、言葉を一切発っしなかった三日月が言葉を荒げ、腰を上げる。そして自身の柄へと手を伸ばす。一触即発の空気が三日月と石切丸の間に流れる。しかしその空気を壊すのも崇雷であった。
畏まって座っていた姿勢を崩し、後ろに手をついて天を仰ぐ。

「ふーん…んー……教えたのは誰だ?前任者か。まぁ、いい。ならば話は早い。」

個人情報を少しでも知られているのならもうしょうがない。隠すだけ無駄というもの。崇雷は潔く顔を隠していた布を乱暴に外し顔を顕にした。凛とした顔で、凛々しい声色で、高らかに言葉を発す。
持ってきていたブラック本丸についての本を真っ二つに裂いて放り投げる。こんなものあるだけ無駄だ。定義から外れているこの本丸には一切対処できないだろう。だから邪道を極めよう。ブラック本丸では顔を隠すこと、素性を隠すことが王道ならば、その逆をしよう。総てを晒け出そう。

「性は八重桜。名は崇雷。ちなみに字名は恵だ。八重桜家の嫡男。初期刀は三日月宗近。俺の総てを知れ。聞きたいことがあれば問うてこい。全てに俺は答えてやる。そして好きなだけ俺だけを呪えばいい。斬りかかってこい。俺は逃げも隠れもしない。総て受け止めて総て受けきってやる。」

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