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3日後いつもの様に二人が部室でレギュラーからの暴力を一方的に受けていた。仁王に宣言した3日後だと言うのに、今まで通りなんら変わりない。本当に、何も変わりない…。ただ単純に皆からの暴力を黙って受け止めているだけ。 強いて変わっているところを言うなら、稀李を守る様に覆いかぶさっているという所。既にボロボロな姿になっている。当たり前だ。本来なら二つに分散される力が一人に集中しているのだから。 「グ、ぅッ…。」 降り注ぐ暴力の山。そして赤也は覆いかぶさっている体の一部、左腕を持ち上げる。 「ホラホラ、部長。そこをどけないとずっと一人で制裁を受けることになるんすよぉ?さっさとどけてくださいっす、よぉ!」 腕を持ち上げ、背中を踏みつけ、そして本来腕が伸展出来ないところまで思いっきり引っ張った。嫌な音が部室内にこだまする。 「グァアアッアッッ!」 「あぁ!退いてや!頼むから、ワイは平気やからぁ!」 稀李は守られてるのはもう嫌だ、と言いたげに声をあげるが、稀李の上から退かない。 「む、赤也。それはテニスが出来なくなってしまうのではないか?我ら立海が三連覇するためには不本意だが幸村の力が必要なんだぞ?」 「副部長ー、ちゃんと見てくださいよ。俺その辺は考えてやってるっすよ?部長の利き腕は右。で、俺が今やったのは左。ね!」 「きちんとその辺を考えて行っているのですね。流石です。」 「へへへッ紳士の柳生先輩に褒められるなんて光栄っすよ。…ねぇ、部長ー、いつまでそうやって、我慢を決め込むんすか?俺らだって、こんな部長の姿を見るの胸が痛んじゃったりなんかしちゃうんすよー。」 「その言葉が嘘の確率97%。赤也、嘘はいけないな。」 「柳先輩そんなこと言ったら面白くないじゃないっすか!少しでも嬉しそうな部長の顔が見れると思ったのに!」 「残念だが、お前の演技力では誰も騙されてくれないぞ?」 「そうだぜ、とりあえず騙してぇならまずその棒読みを改めてから出直しなよぃ!」 「キャハハハッ、だったら私の演技は完璧ってことだね?」 「「「「!?」」」」 稀李が金太郎の声ではなく、稀李としての声を発した。 いきなり部室内に響いた耳障りな高い声。 自分たちを嘲笑うかのような声の出現に制裁者は酷く狼狽する。 「なん、すか?今…。」 「この声は、前に一度だけ……ッ。」 「……この声は、遠野稀李という女の…。」 「何処に居るんだよ!気持ちワリィ!」 何処から声が聞こえているんだと、部室内を、部室の外を探す。しかし黒髪の少女は居なかった。 「ん?…分かった!姉ちゃんの言う通りにすれば幸村の無実は晴らされるんやな!」 稀李がみんなに聞こえる様な声で一人芝居を打った。 「遠山、何を言っているんだ?姉ちゃんなどと、この部室には居ないはずだが…?」 「えー、居らへんの?居るやんか?それでワイにこんなもん渡してくれたで!!なんで自分らには見えてへんの?」 そんなことを言いながら稀李は持っているDVDとカセットテープを柳達にかざす。 「…遠山はその女が幽霊だと言いたいのか?」 「何言っとん、そう言いたいのは兄ちゃん達やろ。ワイはその姉ちゃん知っとるもん。……これかけてみてくれへん?…真実が、この媒体の中に入っとるんやろ?見てみようや、全部。」 「……貸せ。」 柳が稀李からDVD他を取って、プロジェクターにセット。そして流れるは、幸村が無実という事実が写っているモノたち。有罪なんて証明するものは一つも無かった。 一瞬静まり返った部室内。この部室で久し振りの静寂を感じた気がする。 「ッ……これ、どうせ合成なんだろ!?ね、柳さんそうですよね!」 「……信じたくないが、これは合成ではない。しかし………。」 「なぁ、これ見て自分らどう思ったんや?なぁ、なぁ、答えてや兄ちゃん達?」 純粋に、問うだけ。どう思ったかと、今までして来たことは本当に正しいことだったのかと、 「俺らは、なんてことを幸村君にしてたんだ…?」 「幸村君は、無実…だった……ということですか?」 「む……。」 「…遠、山……これ本当にどうやって手に…。」 「遠野稀李が撮ったものや言うたら…どうする?」 稀李が初めてニタリとこいつらの前で初めて笑った。 |
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