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クラスで稀李がぽつんとしていた時、クラスの声が騒がしくなった。発信源を見てみると、今度は仁王がそこに居た。また柳が訪ねて来たのかと思ったが、そうではなかったらしい。それにしても暇な三年生達だ。 「…遠山はおるか?」 仁王の用事は稀李だったようで、名前を呼ぶ。一気にクラスの視線が稀李に突き刺さる。なんでお前なんかが仁王に話しかけられているだと。 そんなの知るか。 「ヒッ……なん、の用や?白髪のにーちゃん?」 一応怯えておく。だって稀李はテニス部その他諸々に虐められている設定だから。 「……ちょっと来んしゃい。」 「いや、いやや!痛いんはもう嫌やぁああ!」 仁王は稀李の腕を掴み、クラスから連れ去った。 そして屋上。仁王は誰も居ないことを確認している。稀李はその様子を縮こまって見る。 誰も居なかったようで、仁王は再び稀李に近づいてくる。稀李も演技は止めて、仁王を嘲笑うかのように見つめる。ついでに盗聴器、その他諸々のチェックをして。自分以外が仕掛けた盗聴器の類のものがないことを確認して、その他諸々。万事に対し万策にして。 「で、なんの用?」 「………。」 仁王は改まったように稀李を見るが、その先何もしてこないし、言ってこない。何がしたいんだ。 「何にもないのに私をここまで連れてきたわけ?何様のつもりだよ。ったく…。無駄に目立っちゃったじゃないの。」 「…―――。」 「ん?」 「…幸村を、おまんの玩具から解放させてやって欲しい。」 「……それは、何故?」 「俺は、幸村にとんでもない事をしてもうた。今更謝ったって、幸村が許してくれるとも思っとらん。でも俺は、幸村に償いたい。謝るだけじゃのぅて、何かしてやりたいんじゃ。」 「…君は謝って何がしたいの?許されないと分かっていながら、謝って。それって自分のエゴの押し付けだって分からないの?自分はもう謝ったから、過去のことには捕らわれずまた仲良くしていきたいのですって言う意思の表れ?」 「違う!本当に、ただ…謝りたいだけなんじゃ!」 「いーや、違わないね!君は自分の罪を早々に流したいだけなんだよねぇ?でもさぁ、それさぁ被害者側から言わしてもらうと、はっきり言ってウザい…んだよねぇ。こっちは許す気は無いって言ってんのに謝って来て、妙にすっきりした顔になってさ。被害者側のこと一つも考えてない。仁王、それは君の自己満足なんだよ。」 「ッ……。」 「ハイ、ビンゴ。お疲れ様。それに私、幸村とは契約っぽいことをした身なんでね。勿論君達に復讐するって言った内容のことなんだけどね。それがあるから幸村を私の玩具から外すってことは出来ないなぁ?ごっめーんね?フフフッ。」 仁王の提案を却下して、稀李は仁王の今の苦悶の表情を眺める。この表情が見たかったと言うこともあって稀李は玩具解放をしなかったといこともある。 しかし一転。 仁王の表情は色を誘うような、誘惑するような、妖艶な笑みに変わった。 「っ……だったら、俺をおまんの一番の玩具にしてほしいぜよ。」 「…何故?」 「俺もおまんの玩具の一人なら、一番になりたいに決まっとろう?」 「………………んー、でもなぁ幸村クンが私のお気に入りなんだよねぇ今。」 「幸村なんてどうでもええじゃろ?俺、幸村よりええ仕事するぜよ。心変わりする気はないんか?」 「どうしようかなぁ?」 「……ッ俺はおまんが好きじゃ。幸村より自分を愛せることを宣言するぜよ。それに、幸村なんて今虐められとるやつとつるんでええことなんて無かったじゃろう?俺とつるむんじゃったら、もっとお前さんにええ思いさせちゃるけ。な?俺を一番にしてくれんかのぉ?」 「ンフフ、嬉しい事言ってくれるじゃない?でも、やっぱり幸村クンの味方は止めれない。そういう約束だもん。だから、ゴメンね?」 「そんなつんけなこと言わんと――。」 「仁王、優しい私から一つ忠告してあげる。そういうことは幸村クンの居ないときに言うべきだったんじゃないかな?」 「ハ?何を言っとう…?」 稀李はニヤリと笑う。そんな笑いをするタイミングではないと思うのだが。 |
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