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16


稀李の気が付けばそこは廃墟だった。周りには誰も居ない。居るとすれば隣にはまだ気が付いていない幸村が一人。その格好は縄でグルグルに縛られ、口には布で声をあげれないようにされている。そして自分の格好を見てみれば縄+鎖で幸村と同じように縛られ、ガムテープで口を塞がれている。冷静今のに状況を判断して、この先どうすればいいのか考える。

本来の金太郎ならこんな目に遇ったらどうする?きっと暴れるよね?

「…………ムグゥウウ!ううッ!う!」

どたばたと出来るだけ暴れて、音を鳴らす。誰も居ないのでは話にならない。
さっさと出てこいよこの野郎。

「……気が付いたか。」

稀李の呻き声に気づいた奴らが物陰から出てきた。

「うー、んう、うー!」

見知った制服ではない。何故、こんな目に遇わせられなければならないのか。

「騒ぐなガキ。お前らに恨みはねぇが、それ相応の金貰ったからな。大人しく、やられてもらうぜ?」

「…………。」

はした金で人生を棒に振ることが出来るある意味尊敬の念を向けるべきやつら、か。
幸村君…さっさと起きろよなー。いつまで気ィ失ってんだろ。貞操の危機ですよー。ホラホラ、君はまだ未経験者だろー?死ぬ気でそういうの守んないとヤバいんじゃねーの?
そしてやつらの手が稀李や幸村の服にかかる。

「そこまでや!」

その時だった。廃墟の入り口から声が聞こえた。刺客達は突然の声の発生に驚いて慌てる。

「誰や!」

「誰でもええやないか!お前らこっから消えんと、警察呼ぶで!」

「ッ!?」

刺客達は警察と言う単語にひどく驚き、拘束したままの稀李と幸村をそこに残して逃げ出した。

「………。」

稀李はその光景を冷たい目で見上げる。

うわ、意気地なしだねー。金を貰ったのに、任務を遂行できないだなんてね。すこしでも尊敬の念を送った自分が馬鹿だった。馬鹿は結局最後までバカだった、と。

「ん……?…ッ!?」

幸村がここで目を覚ました。
丁度いいタイミングだね。もう脅威は居ないんだもん。

そしてここにやってきた人がこちらの方へ歩いてきた。

「…大丈夫か?稀李。」

ここに来てくれたのは白石だった。白石が稀李達を助けてくれた。
白石は手際よく稀李を拘束している縄やら鎖やらガムテープやらを外し始める。次に幸村のも。

「ありがとう、白石君。」

「いんや、かまへん。お礼なんていらんよ。…どうしたんや、稀李?どっか痛いところでもあるんか?」

ガムテープをとったと言うのに、稀李は一言もしゃべらない。それどころか険しい顔で白石を見つめていた。

「お前、私に言うべきことあるんじゃねーの?」

「ん?…なんも無いで?」

「本当に?」

「ホンマや。」

「そう……だったら。」

「!?」

稀李は白石を一発思いっきりぶん殴った。その上で胸ぐらを掴み、睨みつける。

「な、にやってんだ遠野!」

思わず幸村が稀李に意見をする。助けに来てくれた恩人なのに、と。

「幸村クンは黙ってて。いや…帰れ。」

「え?」

「帰れ、と私が言っているんだ。幸村精市。」

「ッ……。」

今までになくドスの利いた声で言われた。本当に今まで聞いたことのないような声で、いつもの茶化しているような声ではない。相当怒っていると見える。幸村はそんな稀李に抗う術なく、この廃墟から去った。
ここに残ったのは怒り心頭の稀李と頬をさすり痛がる白石だけになった。

「イ、テテテテテ…ホンマ何すんねん稀李。」

「…それはこっちのセリフなんだよ。貴様は何を思ってテニス部をたき付けて幸村だけじゃなくって私までもをこんな目に遇わせた。ふざけてんじゃねーぞ。」

ふざけんじゃねーぞと言った稀李の表情は今までになく白石を睨みつけていた。ただ怒っているだけだが、ここまで感情を表して居るのは珍しい。

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