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09


稀李と白石は立海テニス部には入部していない。
つまり、テニス部のメンツとは転入してから関わっていない。マンモス校故か白石が所属しているクラスにはテニス部レギュラーは居なかった。勿論稀李が所属することになったクラスにも居ない。平員は居るだろうが、関係ないだろう。
白石は時々テニス部から入部しないかと誘われていたがやんわりと断り続けたしレギュラー側も途中入部してきた奴に空気を変えられてたまるかと言う気持ちもありしつこくは勧誘されなかった。稀李の方は全く知らない男子として扱われ歯牙にもかけられていない。これによってあちらにとって幸か不幸か、二人の性格は伝わっていない。
稀李と白石の演技は完璧でお互い以外に本性を知っている立海生は今のところ幸村だけだ。


今の時間は放課後になってすぐ。まだ部活は始まっていない時間。その二人の玩具は今一人でやすらいでいた。校舎裏の花壇に向かって座って咲いている花を愛でている。
そこに時折行っていたことを稀李は知っていたが、実際そこに居るところを見たのは初めてだった。

「幸村ぁ!」

「……何かな?」

「ねぇ、何してんの?あ、お花だぁ!ね、ね!この花なんて花なの!?」

稀李は隣に一緒にしゃがみ込み花を見る。珍しい花を見て稀李はテンションを高く保つ。目や口、そしてネクタイの締めている部分。テンション高くて視線がキョロキョロしている。

「鬼灯だよ。確か花言葉は――」

「偽り…だよねぇ?仁王雅治ぅ?」

「ッ!?」

「気持ち悪いんだよねぇ、そんな変装されちゃぁさ。」

指摘すると幸村の髪が頭からずれる。ずれたところから現れるのは銀髪。

「プリ、気付いとったんか。」

ここにいたのは幸村ではなく、幸村の恰好をした仁王だった。

「とーぜん、私を甘く見てもらっちゃ困るねぇ。君のペテンだったか、イリュージョンだったか、そんなちゃちぃ技が私なんかに効くわけないだろ?相手に成りすますにはまず日常から?ハンッお前幸村クンにはなれねぇな。本当の幸村クンはそんな反応は絶対しないし?もう少し幸村クンについて勉強すれば?仁王、それからネクタイのそこに仕込んである小型カメラの向こう側の柳蓮二を始めとする私の正体を暴こうとしてるテニス部レギュラー諸君?」

稀李がネクタイに向かって手を振る。

「…それも気づいとったんか。」


「……ねぇ、なめるのもいい加減にしてほしいな?私が無計画に君なんかに接触するはずないだろ。バカか?おい、お前らよく聞け?私はこうやって策に嵌らせようとする貴様らの発想が気に食わねぇ。私のことが聞きたいなら直接来いよ。あ!ゴッメーン!私の存在を否定してた君たちには私に話しかけるって芸当はできないことだったね!無神経なこと言っちゃった!キャハッ!」


「酌に触る笑い声じゃのぉ。」

仁王が眉を歪ませ稀李を睨みつける。

「え?知ってる、ワザとだよ。君たちの神経を逆なでして楽しんでたりする。もう、その表情最ッ高!怒りに燃えるその眼、綺麗だなぁ。もっとよく見せて?ねぇ、ねぇ、ねぇえ?」

「ッ!?」

稀李が両手を伸ばし仁王の顔に手をかけかけた。しかし仁王が身の危険を感じ稀李を突き飛ばし距離をとった。

「いったぁ…!君結構酷いことするねぇ。」

「ッ…おまんの方が酷い発想ぜよ。」

「んふ、褒め言葉。さぁて、仁王雅治そのネクタイについてる小型カメラを渡しな。あと耳についてるイヤホン。」

「嫌じゃ。」

「クスクスクスッ。勘違いしないでねぇ?これお願いじゃなくて命令なの。従わないって言うなら…さっきのことを最後までやっちゃうかも。逃がさないよ?」

「………。」

稀李は何とも言えない重いオーラを放ち、仁王はそれに怯えた。怯えてゆっくりとネクタイについていたカメラと耳に付けていたイヤホンを稀李に手渡した。
稀李はそれを受けとりカメラとイヤホンはポケットの中へ。

「あッと、忘れるとこだった。」

仁王の制服のポケットに問答無用に手を突っ込み黒い物体を取り出した。仁王は少しの抵抗を見せたが稀李の前では無に等しい。

「あったあった。盗聴器ぃ。ハロハロ?お久しぶり。元気にしてたかなぁ?貴様らのことなんてどうでもいいから答えは聞く気ないよぉ。ってことで一方的に喋りまぁす。お前らの考えてる策って幼稚すぎ、私が引っかかるとでも思ったのぉ?本当にバカだねぇ。こんなのに引っかかるのはよっぽどのバカかそこに居る切原ぐらいなんじゃない?クスッそんな幼稚なことを仕掛けてまで私の正体知りたいんだ!稀李ちゃんモテモテで困っちゃうなぁ。さて、そこに転がってる幸村クン…多分居るよねぇ。今日も殴られお疲れ様!また手当してあげるからねぇ。ばいばぁい!」

稀李はその盗聴器を手で握りつぶした。

「さて、仁王雅治。君は私に接触した。これ、どういうことか分かってる?」

「…分かるわけないじゃろ。」

「そうだねぇ、分かったら君の人間性を疑う、よ!」

「ッ!?」

稀李は仁王のネクタイを引っ張り顔を接近させた。

「いいか?私に近づいたってことはな、私の玩具になるってことなんだよ。今まで本当の私に出会ったモノはみーんな私の玩具!まぁ?君は、君たちは幸村って言う玩具で遊んでたんだろうけど、今度は君が私の玩具になるんだ!」

「嫌じゃ!」

「さっきから否定が多いなぁ。まるで私が一番気に入ってた一代前の玩具みたいだ。いいさ、思う存分そう発言しとけばいいさ、君は既に私の玩具の一員だしね!あ、君だけじゃないや…でも、君を幸村の次に気に入ってる玩具ってことにしといてあげる!……さぁて、そろそろ君の仲間が走ってくる頃だし?せいぜい私の正体について話し合うがいいよ!」

稀李は言い捨ててその場から離れる。仁王は恐怖からなのか、変わらない感覚に陥り稀李の後を追うと言うことが出来なかった。そして稀李がその場を離れて行った後すぐにテニス部メンバーが駆けつけた。

「仁王君、大丈夫ですか!?」

「…あ、あぁ……大丈夫じゃ。」

「仁王、こんな役を頼んですまなかった。しかしたくさんの情報をとることが出来た。」

「…それは良かったのぉ。」

「名前は遠野稀李だと分かっている。そして今回分かったことは身長は150cm程度、そして髪の色が黒色の長さが腰のあたりまである女子だ。これで見つけることが出来る。」

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