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稀李と白石は証拠集めをしっかりと行った。 謙也達に浴びせられる制裁もしっかりと、 教員、生徒から浴びせられる悪口をしっかりと、 しっかりと、記録に残す。 どんな証拠が集まったのか。それは確固たる真実が記されたもの。 どんな暴力を受けたのか。それは想像にお任せしよう。 あえて言うなら、通常ならば耐えきれないもの。耐えることができたのは歪んだ価値観を持っていた二人だったからと言えるだろう。 「さて、十分証拠も揃った。」 「謙也らの制裁も十分録った。」 「体中もいい感じに痣だらけ。…みんな容赦ないな。」 「当たり前やろ、正義の味方が悪者に手加減するやなんて聞いたこと無いで。」 「そうだね…でも、楽しかったね。」 「せやな、何が楽しかったって、謙也のあのセリフ。」 「あんなスピードバカにも葛藤してたんだね。でも結局はあっち、と。白石人望無いね。」 「今の俺に人望遇った方がおかしやろ。」 「そうとも言う。私的にトータルして面白かったのは――。」 「俺的に面白かったのは――。」 「「光の表情、行動、すべてが面白かった。」」 顔を見合わせ、口調を合わせ妖艶に嗤う。 「私が暴力を受けてるとき光こっち見てたんだよなぁ。光にしか見えないようにニヤって笑うと尚のこと面白い反応をしてくれた。」 「確かにな。」 「ちゃんと私の言いつけを守って物語には参加してないいい子ちゃんだった。」 「でも遠目で俺らを見とる表情は傑作なものがあったな。」 「良い表情だったよ。あの葛藤する表情。謙也は足元にも及ばない陳腐な葛藤劇を披露してくれたが、財前は私たちの本性知ってるからねぇ。殴ってる謙也を見る表情は泣きそうな表情で、まるで叶わぬ恋をしているような目だったよ。」 「なんや、その例え。まぁ、面白いからええけど。」 こんな風に会話をするのは何度目か。 毎回の話のネタはみんなの失態。そしてどんなことを思いながら鉄拳制裁を行っているのか、予想を立てる。第三者が居たら驚くような対談を行っている。 そんな対談も明日で打ち切り、 何故なら、 二人は死んでしまうから。 二人は自らを殺してしまうから。 二人は自ら死んでしまうから。 「さて、どうしようか。白石はどんな風にして死にたい?」 「せやなー…何でもええでぇ。」 「だったら低血糖を無理矢理作って死のうかなぁ。」 「は?なんやそれ。」 「明日教えてあげるよ。場所は部室でいい?」 「ええなそれ。」 「決定だ。明日実行しよう。」 「なぁ稀李、その証拠誰に見せるん?」 「んー…PTA会長。」 「えげつな!?」 「何とでも言え。それにもう渡してある。コピーの方をね。」 「…俺、知らんかったんやけど……。」 「だって昨日思いついたし。利用できるものは最大限利用するよ。それがたとえ大人だろうとね。それで思い立ったが吉日。昨日の夜、渡しに行った。」 「よう……その話乗ってくれたな。俺らが悪い設定になってるんに…。」 「何言ってんの。変装していったに決まってるじゃん。じゃないと門前払い食らうよ。私は今、白石側についた裏切り者ってなっているのに。黒いカツラに黒いカラコンを入れて、伊達眼鏡してね。パッと見別人。天真爛漫純粋無垢な笑顔の金太郎を隠してガリ勉芋子のクソ真面目な生徒として接したんだから。13年間演技し続けていてた私をなめてもらっちゃ困るね。大人一人落とすぐらい簡単だよ。」 「ホンマ、怖いわ。同じ属性でもここまで違うんか…。」 「私は元々女だし考え方は男よりもえげつないと思ってるよ。ほら、女子の虐めは陰険だし?」 「それに納得してまう俺が居るわ。」 「クスクスッ、君のその驚く顔も嫌いじゃないよ?まぁ、明日PTA会長はこの学校に乗り込んできてくれるはずだからね。楽しみだねぇ。」 ―――――― ――― 次の日、二時間目が始まったあたりにPTA会長がやってきた。怒り心頭の様子。職員室にまっしぐらだ。 白石と稀李は部室にて雑談。 「さて、もう来ちゃったし私たちも死のうか?」 「おん。で、低血糖ってのはなんなん?」 「インスリンは知ってるよね?」 「糖尿病の治療薬やろ。どこで手に入れたんや。」 「同居人が一人治療中なんだよ。それをちょっと拝借してきた。今からそれを接種して無理やり低血糖状態を作るんだ。元々、高血糖値を正常値に近づけるために摂るんだ。効果は大変強い。摂りすぎると覿面に血糖値が下がって、昏睡状態になる。そして運が悪ければ死ぬ。ま、今回は直ぐに発見されるだろうから死にはしないね。ブドウ糖を摂らされればある程度直ぐに血糖値って上がるわけだしね。あ、朝ご飯食べてきてないよね。」 「ああ、やから朝飯食うな言うたんか。勿論食っとらんで。普通に腹減っとる。」 「首尾は上々ってね。さぁ死のう?あいつ等、真実知ったら速攻で私達のこと探すと思うよ?」 「それもそうやな。まぁ、謝ってきてもさらさら許すつもりはないし…さっさと死のか。」 「じゃ、」 「また、」 二人は実行した。 だんだん意識が遠くなっていって、目が霞んできた。 そして二人が意識がなくなる最後に見たのはお互いの顔。 |
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