10 |
財前の目の前で苦笑していた白石が苦笑からいきなり無表情になった。まるで無機物を見ているかのような目で財前を見据えている。 「そんな綺麗事俺が言うと思うたか?だぁほ。」 「ぜーんぜん思いませんでした!」 見ていた稀李が気軽な口調で答える。 「…稀李には聞いとらん。なぁ光、俺はパーフェクトが好きなんや。完全無欠最強無敵が大好きなんや。光が自分だけの思考で俺の味方になろうとしてくれとったら俺は自分を快く迎えたと思うで?でもなどうやって気づいた?稀李がアクションを起こしてからやろ。稀李の行動を見て気づいたやろ。そんなパーフェクトやない中途半端な奴、俺にはいらんねん。こんな微妙なタイミングで気づいてから…事が上手く運べんやろ。自分は腹黒ってわけでも無いんにこっちの話をガン聞きしよって…、まだなんも知らんで俺を虐めてくる方が楽やったわ。あーぁ、光。自分、これからどうする?俺は稀李と違って優しいからな。ちゃんと選択肢与えたる。俺らの機嫌とって傍観するか?それとも俺らを虐めるか、どっちがええ?なぁ?」 「…っ、どっちもいや……。」 結末はどちらもBad End.選びたくない。 「ん?俺はそんな選択肢与えとらんで?残念やったなぁ光。もう逃げれんで?まぁ、初めから逃げ道なんてないけどな。ここは間をとって稀李に聞いてみようか。なぁ、どっちがええ?俺はどっちがええかって聞いとるんよ?」 「そんなの、傍観者気取っといて欲しいよ。」 さっきから言ってるじゃない。 「また稀李、勝手に答えよって…まぁ、しゃーない。答えをさっさと出さん光が悪い。明日から傍観気張りや。」 「イヤやて――「言わせねーよ?ダァルイんだよ糞餓鬼がぁ。」 またもや稀李が財前のセリフを遮る。 「さっきからウダウダウダウダ抜かしてさ、君何様?選択肢は二個しかないのに『ヤダ』なんて言ってさ。そんな選択肢無いっつーの。こっちは選べとは言ったけど、考えろとは言ってない。つまり優柔不断な君のために私が選んだ。君の進むべき道は傍観ストーリーだ。君に拒否権なんて存在しない。返事は肯定、それだけだ。まだなんか言うか?あ?」 「っ。」 「無言は肯定ととろう。さぁ、もう行きなよ。用は済んだ。保健室から出た瞬間、君は先輩たちを売って自分だけ助かった卑怯者の傍観者だ。」 二人から冷たく睨まれ、財前は逃げ出す様に保健室から出て行った。 「なぁ…、あのクールで有名な光がめっちゃ怯えとったな!」 「そりゃそうでしょ。だってこんなキャラだとか思って無かったようだし。」 「ハハハッ確かに稀李の豹変は恐怖でしかないな。」 「白石に恐怖だよ。上げて落すなんて…鬼畜だね。」 「お褒めの言葉ありがとな。」 「そういえば、光は好きでガン聞きしてたわけじゃないよね。むしろ私が巻き込んだのに…哀れねぇ。」 「そんなん嘘も方便やろ。光に恐怖を味あわせてやったら、楽しいやん?」 「確かに。」 「でももう光は俺らには関われんのかぁ…遊び道具一個無くしてもうたなぁ。」 残念そうに呟く白石をしり目に稀李は楽しそうに言う。 「そうだよ。これから光は本編に登場してこない。」 続いて白石も言葉を紡ぐ。 「むしろさせんやろ。」 「キャハっ!バレちゃった。」 哀れ財前光。 君はここで、物語への参加資格を失った。剥奪された。 代わりに与えられたのは傍観者という資格。 投げ捨てたいものだろう。 しかしそれはかなわない。 狂気の瞳を持った二人が面白可笑しく見張っているのだから。 |
<< TOP >> |