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「……傍、観…?」 ゆっくりと上半身を上げる。 「そう、傍観。物語の顛末をずっっと見てるだけ、登場人物に関わったらダメだよ?登場人物がどんなに辛い目に遇っていても、目を背けたくなる光景も目を逸らさずに見るんだよ。傍観ってさ、チートなんだよ。第三者のくせに…いや、くせにって言ったらおかしいか。第三者だからこそ、物事の顛末を登場人物より詳しいんだ。他の視点から見るってことが作用してるんだろうけどね。最後の最後で傍観者は、物語に関わることを許される。登場人物になることを許される。正論を言うことを許される。なんでもが許される。そこで悪い方に対して正論を用いて精神的に罵る。『なんでこんなことも分からなかったんだ』と。でも反論されるんだ。『気づいていたなら教えろよ』と。で、傍観者はこう言い放つ。『君たちの問題だろ』と。そこでまた悪い奴らは顔を歪ませるんだ。なんて愉快。ああ、なんて滑稽。物語の序章から良い奴が苦しむ姿を見れて、最終章では悪い奴らが苦しむさまを見れる。なんて美味しいんだ。他人の不幸は蜜の味ってね。私はその蜜を飽きるまで啜っていたかった!」 稀李は財前に、譲るよ。と無邪気な笑顔で言った。 「……悪い方っていうのは…?」 財前は訳も分からない単語を前のめりな口調で言われてしまい、状況が上手く掴めない。 「んっんー?誰だろうねぇ?白石かな?ほら、腹黒ってこと隠してるし。」 「んなアホな。悪い奴らは謙也らや。俺、被害者であって決して加害者やないもん。俺、一回も手ぇ上げたこと無いで?」 「…やったら、俺は――。」 だんだん分かってきた。財前は、 「うん、さっきまで仲良しこよしをしていた謙也とかその他諸々の敵になるんだ。」 最後の最後、謙也たちを罵る役目。 「っ―――。」 「あーでも君って謙也派閥の人間だったんだっけ?だったら辛いよねぇ。そいつらを罵るって、ねぇねぇ辞めたい?やりたくない?」 「辞めt「ダァメ、辞めさせねーよ?」 辞めたい、やりたくない。 稀李はそう言いたかった。 一緒につるんでいたのに、仲良くしていたのに、先輩を罵るなんてできない。 って思ったのに、 「ねぇ、今何考えた?仲良くしていた先輩を罵ることはできない。そう思った?」 財前を軽蔑するような視線を稀李は向けた。その顔には笑みは無く、目を細めて見下した。 「っ。」 「……思ったんだね?思っちゃんだ。思っちゃったんだ!キャハハ!君は矛盾の塊だなぁ。そんな持論を持つ君はなんで白石のことをこんなにすることが出来たのかな?白石だって先輩でしょ?白石だって同じ部活の仲間でしょ?部長様だよ?君は前まで、白石とだって仲良くしてたんじゃないの?それなのに白石には暴力奮って暴言を吐けたの?それで謙也達にはできないの?ウフフフッおっかしー。」 ケタケタと財前の愚弄な行為を嗤う。財前はもう一度泣きたくなった。そんな中稀李の笑いを止めるよう白石から言われる。 「稀李、もうその辺にしとき。」 「………はぁい。」 稀李はつまらなそうにその辺りの椅子に座る。 「なぁ、財前?意地悪して…ごめんな。」 白石が椅子から立ち上がり財前の横へと座る。 そしてゴメンな、と頭を優しく撫でながら、白石は財前を慰めるような形をとった。 「…え?」 財前は俯いていた顔を上げた。突然白石が味方に回ってきたからだ。 「意地悪して、ゴメンな?稀李も悪気があったわけやない。元々あんな性格なんや、俺から謝っとくゴメン。そんでありがとう、俺の味方になろうとしてくれて。俺めっちゃ嬉しかった。」 「部長…っ。」 「これから、俺はみんなの誤解を解いていく。解いて、また仲良うなったる。それまで辛いやろうけど、な。」 白石は苦笑する。 「頑張ってくだ…っ。」 |
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