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07


保健室の窓の外で身をひそめて話を盗み聞きしていた人物。それは二年の財前光だった。
財前は稀李に首根っこを掴まれたまま話す。先程の稀李の態度はタダの演技だったのだろう?と、悪い冗談だろう?と、声を震えさせながら発した。

「金ちゃ、ん…よな?」

「おん!ワイは金太郎や!」

「さっきのは…演技…やろ?」

「おん!もちろんや、上手かったか?ワイの演技!」

にぱーっという効果音が適当であろう笑顔を稀李は財前に向ける。演技というワードを出し、天真爛漫な笑顔を向けてやると財前がほっとしたように肩の力を抜く。

「って言ってほしかったかな?」

稀李は財前のホッとした表情を見て満足し、本性を再び表した。天真爛漫な雰囲気をひっこめ稀李の本性のオーラを出す。暗くて深くて、抗いようのない空気。突然の変化に財前は息を飲んだ。

「っ!?」

「金太郎のあれは全部演技だよ。むしろこっちが本当の私、演技してる理由は私、原作沿い派なんだ。」

「原作沿いってなんや?」

後ろから白石の声が聞こえた。

「あらら、口が滑っちゃった。もういいや、話してあげるよ白石。ほら、財前もこっから入って。逃げれると、思わないでねぇ?」

稀李は財前の首根っこから手を離し、保健室に入ってくるように促す。財前も逆らうことなく入ってきた。入り終わったら稀李は窓にカギをカシャンとかけた。
財前にとっては怖い音だろう。
何故なら未知の空間に放り込まれたようなもの。味方も居らず居るのは、敵。得体の知れない、元仲間。

「さて、光…君もその辺りに座ればいい。君も気になるところでしょ。」

「…いつから、俺があそこに居ること気づいとったんや?」

財前は座る椅子が無かったため近くのベッドに腰を下ろした。そして意を決したように質問をした。

「んー?始めからだよ。だから窓は閉めなかった。」

「あー、だから稀李は窓の方には行かんかったんか、てっきり忘とるんかと思ったわ。」

「そんなヘマ私がするわけないいでしょ。それよりも気づいてたら閉めないの?とか聞いてよ。」

「別に俺腹黒やってバレてももうどうでもええし、むしろ稀李の正体がバレたらどうなるか、そっちの方が気になってもうたし。」

「…今度から黒石に改名すればいいと思うよ。」

「善処しとくわ。」

「ホンマ、どういうことや?なんで…そんな、金太郎は白石部長の肩を持ち始めたんや…?」

「そこから説明しなきゃかー…だって白石は架空の因縁つけられて虐められてるからだよ。まぁ、あとは面白いからかな?」

「…面白い?」

「そう、面白い。」

財前がいつも見ていた天真爛漫な笑顔とは遠くかけ離れた妖美な笑いを見せた。

「まぁ、きっかけは白石が屋上から飛び降りようとしたからだけど、…今思えばあれも演技か。」

「せや、 稀李の尻尾掴んだろ思うて。」

「あー、ミスった。もう少し傍観気取っとくんだった。まぁもし白石があそこで死んじゃったら、四天宝寺なんて全国大会にすら行けないよ。さっきも言ったけど私は原作沿い派だ。どんなにあそこで白石が冗談で飛び降りて、死ななくても後遺症が残ったらテニスどころじゃなくなるしね。後の理由は本当に面白いからさ。あれだけ他人に暴力をふるえる人間はそう居ないよ。ましては親友を、さらに正義気を取とって制裁なんてできないよ。神様にでもなったつもりかあいつらは、特に謙也。彼は特に面白い。これからの私の玩具だ。ここは本当にいい立ち位置だ。他の人がどんな目で人を虐げているかよく見える。それを私は記録しておきたいくらいだね。私はすぐ忘れちゃうから。そうそう、私のためだけに記録をするんじゃないんだ。あいつらが本当の事実に気づいたときに見せるんだよ。どの位後悔した顔をしてくれるんだろ。どの位歪んだ顔を見してくれるんだろう。想像しただけで絶頂を感じられそうだよ。それが楽しみで仕方ない。
さてさて、ここまで聞いた財前光、君はどうしたい?まだ正義気取って私たちに制裁という名の愚かな行為をしてくれるのか、私と白石の仲間になるか。…私は君に何を望んでると思う?…一生懸命考えるんだよぉ?」

子をあやす様に問いかける。話を聞いていた財前の目の前には選択肢が限られている。
慎重に考える。答えを出す。

真相を知った。
白石蔵之介は架空の因縁を付けられて虐められていることに、

本性を知った。
白石蔵之介と遠山金太郎否、遠野稀李が腹黒いことに、

事実を知った。
二人は虐めを楽しんでいることに、


真実を知った。
知ってしまった。

怖い、二人が…今、何より怖い。
自身の身を守りたい。そこの見えない暗闇に全身を飲み込まれたくない。自分を身を守るためには、たった一つ。この道しかない。

「俺は……二人の、味方に――「はいブー、不正解。」

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