泣き虫ガール | ナノ


10


「おい、持病ってやつは治ったのか?」

跡部君がおかしなことを言ってきた。
治るわけ…あれ?そういえばいつもなら泣いてもいい状況にあるのに涙が出てこない。

「あー…?涙…出てないね。
火傷で涙腺が詰まったかな?そんなわけないか、
言葉を喋れるっていいね。あんな煩わしい思いもしなくていいこの状況、こんにちは!」

「名城…すまんかった。」

仁王君が頭を下げた。

「仁王君、私がこんな目に遇ってきたのに、
私は謝ってもらうだけで、許す人間って言う認識なのかな?私は聖人なんかじゃないよ?」

「ッ……責任は…とる。」

「へー…責任、ね。じゃ結婚でもする?」

「「「なッ!?」」」

仁王だけじゃなく、その場に居た全員が驚いた。

「なんでそんなに驚くのさ、だって責任とってくれるんでしょ?私、こんな火傷したんだよ?」

私は綺麗にはられたガーゼをはがす。
そこから現れたのは全体的に赤い頬。特に目尻からは涙を流している様な線が真っ赤という言葉だけでは足りないぐらいの赤さが主張していた。

「ねぇ、折角涙が流れなくなったって言うのに、これじゃずっっと泣いてるように見えるよね。それに…ねぇ、見える?この私の皮膚の色。ねぇ、きれいでしょ?いろんな色があって、黒、紫、黄緑、黄色、ねぇすごいでしょ?これぜーんぶ君たちがつけてくれたんだよ?」

袖をまくって見せつける。そんな光景に目をそらすみんな。自分の罪から逃れようと目をそらしている。

「まッ言い出したのは私でもお前らなんて外道と結婚するなんて絶ッ対嫌だけどね。」

「ッ……だったら俺たちは…どうやったら許してくれる?」

幸村君が悔しそうに、悲しそうに問いかけてくる。

「へ?なんで許される前提なの?
私が、アンタたちを、許すわけがない。いや絶対に許さない。痣だけだったらまだ許せたかもしれない。なのに私が克服したいって思ってるこの持病を、…いや、泣き顔を一生治せないようにしてくれた。だから絶対許さない。」

「お前の様な一般生徒が俺たち王者に何かできると思っているのか?」

「柳君、それは脅し?
でもそんなのは効かないよ。こっちには君らに痛めつけられた証拠がある。今ここには無いけど君たちが私に暴力を振ってる姿や罵ってる音声がある。それに医者のカルテだってある。私の体のあちこちにはテニスボール型の痣もある。ねぇ、この証拠を出るところに出したら…一介の子供の君たちがどうにかできるレベルじゃないよ?」

「やめッ。」

「私が泣きながらそう言ってもやめてくれなかったのはだぁれ?」

「「「ッ…。」」」

「もう、遅いけどね。ここの榊先生にもうビデオも音声もカルテのコピーだって渡してる。
君たちはもう、今年の大会には出られないんじゃないかな?最悪、廃部?」

私がこう言うと立海のテニス部が何も言葉を発せなくなった。
ざまぁみろ!!

「跡部君、ありがとうございました。すっきりしました。」

「あーん?名城テメェはっきりものを言う奴じゃねーか。」

「あぁ、私だって声が支障なく出るんだったらちゃんと言えるよ。
ちょっと元々ひねくれた性格してただけで、涙の下ではいつも悪態をついてたんですよ。」

「俺様はそういう性格嫌いじゃねーぜ?」

「そう?跡部君に褒められちゃった。」

「千愛ちゃん。
こっち来ぃ、ガーゼ貼りなおすで。」

「あぁ、ゴメン。調子に乗って剥がしちゃった。」

忍足君は慣れた手つきでガーゼを張りなおしてくれた。

「幸村、お前らいつまでそこに立っている気だ。
さっさと帰って部室でも掃除しに帰ったらどうだ?あーん?」

跡部君がそう言うと幸村君たちは帰って行った。
最後まで私に何か言いたげだったが、多分謝罪の言葉でも言いたかったのではないかな?
でもそんな陳腐な言葉は受け取ってやんない。一生私を虐めたという罪悪感に駆られ、最後の公式試合に出ることが出来なかった後悔を一生すればいいよ。

「ねぇ…千愛?また氷帝に帰ってこない?
立海に行っても千愛は肩身の狭い思いをしなきゃなんないんでしょ?」

ジローが提案してきた。

「……そうだね。もう、いいかな?涙も簡単に出てこなくなったし、家はもともと氷帝の学区にあるわけだし、
うん、戻るよ。手続きは親が戻ってきたときにするから早くて一か月後かなぁ…?」

「マジマジ!?また千愛と学校通えんの!?嬉C!」

「お前本気か!?その顔で学校通うとか正気の沙汰か!?」

「うん、氷帝にも友達居るし、まぁ…この痕だけは驚かれるかもしれないけど。別に、どうでもいいことだよ。」

「名城、一か月も学校通わない気か?手続きなら榊監督に代行してもらえ、そしたら明日からでも氷帝に通える。」

「ホント!?」

「あぁ。」

「だったら明日から、よろしくお願いします!」

「「「お帰り!千愛!!」」」

ジローと岳人、亮が声をそろえて迎えてくれた。
私はその声にこたえて精一杯の笑顔を向けた。ガーゼまみれだけど、

「ただいま!!」




―――――――
2012,05,01〜2012,06,01拍手


<< TOP >> 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -