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着ていた服を、シャツを玖城の肩に掛け、姿を自分の後ろへと回した。玖城の服をしつこく掴んでいた男には一発おみまいして物理的に後退させた。勿論精神的にも後退していた。何故なら上半身裸になっていたからである。 「あんたッ服…て、あんたが抵抗したって!」 「あ?まだ気付かねぇの?」 そして上半身裸となり、それから上半身をひねり、玖城の方へ向けた。そして女性にあるはずの膨らみが全くなく、筋肉が美しくついている胸部があった。そしてついに気が付いた。 「男ッ!?」 「ザッツラァイト!」 成実と玖城が漫才を繰り広げている間、不良共も玖城と共に驚き、少しの間放心していた。仕方がない。自分達を焚きつけたのが成実で、さらにターゲットの女で極めつけに男だという事。驚かないわけがない。 「ひーふーみーよー以下略六人!vs俺!ぴよちゃんにしごかれた一週間を無駄にはしねぇぜ!一騎当千とはいかなくても怪我をしないようにLet's ビギン!」 成実はこれを練習試合の時から予想して、再び日吉に稽古を付けてもらっていたのである。完璧に相手を気絶させなくても、隙をつく程度の実力を付けるため。複数人となるとそれなりに大変なのだ。 襲いかかってくる数多な拳、それを去なしたり、手の平で受けたり、あるいは反撃して拳の数を減らす。しかし、相手が多く分が悪い。少しずつ体力も無くなり、正確に去なしたり受けたりすることが辛くなってきた。そしてついに拳を身体への接触を許してしまった。 「ぐぅ…ってぇなおい!」 「藤ケ院成実!?」 「テメェは自分の心配だけしてろぉ!」 玖城はその成実の様子を心配して駆け寄ろうとしてきたがそれを成実が制す。今来られても足手まといでしかない。いや、居るだけで足手まといだけどな。そしてついにやってしまった。商売道具の顔を傷つけられてしまった。正面からの拳を避けようと上半身を捻ったら殴られた脇腹が鈍くいたみ、動きをミスり、拳が頬をかすってしまう事態に陥ってしまった。 「あ゛あ゛あ゛あ゛もう!俺の麗しいかんばせがぁああ!テメェら同じ男子だから情けをかけてやったのに!狙わないでやったのにッ!ざけんなカス共が!死んでしまえ!この包茎野郎共がぁあああああ!」 情けをかけてやっていたという慈悲深い成実の思いを一発の拳で消滅させてしまうなんて愚行。本当に愚かでしかない。成実は渾身の一撃を一人一回。それから全員に浴びせる上で進行上にある悶絶している状態の男共を、わざわざしっかりと踏みつけて+αの攻撃をする。 「行くぞ玖城、俺のすぐ後について来い!」 「う、うん!」 男共を全力の金的攻撃を食らわせ、結果的に地に這いずり立ち上がることもままならない状態にしてから、成実は玖城の腕を掴みその場を逃げ出した。玖城もその指示に素直に従った。居た場所から真っ直ぐ走って曲がって曲がって、走って、また曲がって。完全に男共をまいてから、路地へと身を隠した。カフェとかに入って休憩といきたかったが、なにぶんこの格好である。上半身ほぼ裸。そんな格好で入ったらいくら成実だと言っても補導である。 「…ッはぁ、ここまでくれば大丈夫だろう。玖城、大丈夫か?」 成実のペースで走ってしまったため玖城にとってはかなり苦しいペースだっただろう。 「ハァ、ハァ…ッば、馬鹿にしないで、よ…この、位平気よッ。」 「バカにしたつもりはねぇんだけどな…。まぁ、平気なら一つ頼まれてくれ。この金で俺の服買ってきてくれ。」 今日は散財の日である。これくらいは覚悟していたので、軽い出費だ。それに金ならある。 成実は玖城に財布から金を適当に渡した。 「……私がこのお金を持って逃げることは予想しないの?」 「あ?んなことお前、しないだろ?」 「……ッ行ってくるわよ。行ってくれば良いんでしょ!?」 「そーそー、行ってくればいいのよ。」 |
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