汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


056


「で?何処よ。藤ケ院成実は。」

玖城は捕らわれの身となっているはずの成実を拝んで罵ってやろうと考えて、ボス的な人に声をかけた。

「居ねぇよ。そんな女。ここにいる女はテメェだけだ。」

「はぁ?あんた達何を言ってるの。約束を違えたの?」

「約束ぅ?俺らはこの格好をしたこの顔をした女をここにちゃんと連れてきたぜ?」

確かに間違えていない。
成実の顔をした青系統のワンピースを着た女性。それは玖城にも適応されるわけで。

「なッ…私は違うわよ!私は依頼した女よ!」

それに名前を否定したとしてもそれは証拠にならない。いくらでも語ることが出来るのだから。生徒証明証でも持っていたら話は別だが、こんな事になるなんて思いもしなかった玖城は準備すらしていない。絶体絶命の大ピンチである。

「助かりたいからって、ごまかしちゃいけねぇぜ?成実ちゃぁん?俺達とタノシイ事、しようぜ。」

そんな言葉を皮切りに男共が下品にも玖城に群がる。手を捕まれ足を捕らえられ、それから服に手をかけられる。絹を裂くような悲鳴が上がる。あれだけ悪態をついても怖いものは怖いらしい。成実はその様子を一人距離をとってみていた。

「…やっぱり胸くそ悪い物があるな。」

当たり前だ。顔がそっくりであるのだから、自分が男共に襲われていると錯覚してもおかしくはない。

「おい、お前は参加しなくていいのかよ。」

「あ?あー…俺は見てる方が楽しいから。」

男の一人に気をつかわれた。そんな気を回すぐらいなら、その優しさを玖城に向けろってんだ。玖城の方に視線をやると目があった。自分に何もしてこない成実の姿を見つけ、懇願するように縋ってきた。

「ヤダっお願、助けてよぉ…!」

「ん?今、俺に行った?まさか!助けて俺にメリットあんの?」

「何でも、するから…助け、てぇ。」

泣いて懇願して、今襲ってきている男と同じ性別の男に、ただ襲って来いないだけで、成実は玖城の敵なのに。何とも言えない悦に浸った成実。正体をバラしてみよう。そうしたらどんな表情で命乞いをしてくれるのだろう。

帽子をとって、長い髪を垂らし、目元を明らかにしながら成実は玖城に問いかけた。

「嗚呼、なんて見窄らしいのでしょう。私を嵌めようとした策士が私に縋ってくるなんて、策士策に溺れるとはまさにこの事。玖城さん、如何ですか?貴女の敵であるこの藤ケ院成実に、それでも乞いますか?無様に惨めに願いますか?」

「ッあん、た!?」

突然現れた成実。
玖城も驚いたが、男共も驚いた。驚き、両方の動きが停止した。その中でも一人喋り動き続ける成実。少し離れていた所から少しずつ近付く。帽子を取り、髪を解きながら、少しずつ。

「まさかこんな非道な事を玖城さんが計画しているなんて夢にも思いませんでした。私が玖城さんの計画にハマり行動していたらそこにいるのは私と言うことでした。嗚呼、なんて恐ろしい。怖いでしょう?玖城さん。恐ろしいでしょう?玖城さん。貴女は女性に対して決して行ってはいけない事を考え、実行していたのですよ?他人が嫌がることをしてはいけない。小さい頃から再三言われていたのではないですか?さて、玖城さん。私も鬼ではありません。今までのことは気にしないであげましょう。今回のこの計画を実行しようとしたことだけ、謝罪をしてくだされば、助けて差し上げましょう。忍足君の為にも綺麗な体で居たいですよね?」

優しい笑みで玖城に語り掛ける。玖城は今、プライドを捨てることを強いられている。いや、別に強いてはいない。今は、成実に助けられプライドを捨てるか、男共のオモチャとなってプライドを踏みにじられるか。二者択一である。
そんな事、玖城も分かっている。だから玖城は下唇を噛み締めて、言った。

「…ッごめんなさい。」

「はい、承りました。さて、お喋りもここまで、私もここまで。ここからは、俺の時間だ。」

<< TOP >> 
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -