汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


058


玖城はわざわざ悪態をついてから金を持って店へと出かけた。
それから少しして玖城は新しい服と共に帰ってきた。

「お、おかえりー玖城。さっそく服をくれ。」

「…はい。」

帰ってきた玖城に手を突きだし、服を受け取る。

「お、メンズじゃん。」

「あ、当たり前でしょ!?あんた男なんだから!」

「さっきまで女だと思ってたくせに。」

「………。」

玖城は言葉を失い無言になった。そして成実は玖城が買ってきた服に腕を通す。着替えている間、玖城からの熱視線が注がれた。

「……いやん、玖城さんのえっち。」

「ハァ!?何言ってんの!?バッカじゃない!?」

「キャンキャン吠えんな頭に響く。今までのクールキャラ保っとけよ。」

「キャラって…。」

「そうだろう?クールぶってるミーハー娘さん?それともトリップ娘とでも言えばいいかな?」

「アンタ…何で知って…。」

「そりゃ、俺だからだよ。まぁ、お前も聞きたいこと有るだろう。お前が俺からの質問に答えてくれるなら。三つまでなら答えてやんよ。」

「…何故、女の格好をしてるのよ。」

「大衆演劇代表家藤ケ院家嫡男真女形だからな。練習の為だ。これはこの世界では常識だ。だから学校でも女子として過ごしている。あ、ちなみにトイレは職員トイレを使ってるぜ。」

「トイレの事なんて聞いてないわよ!……どうして、私を嵌める様な…いや、今の無し。トリップ娘を相手にして、貴方は何をしたいの?」

「単純明解、暇つぶしだ。娯楽だ。俺って学校で弄られるとか経験したこと無いんだよ。藤ケ院家だからな。だから、ちょっとね。神様に気に入られている俺は、適当にお前達が頑張って俺を嵌めようとしてくる姿を見て嘲笑って、頑張りを狂わせたり、壊したり、予想以上に成功させたりしてんだ。」

「……そう、なの。…私は、もうこの世界から…追い出されるの……?そうよね…それが王道だものね。」

「それはお前の答え次第だ。そしてクエッション。お前は俺の手足になるつもりはあるか?なってくれるなら、この世界に留まらせてあげるよ。」

「…手足って言うのは?」

「難しい話じゃない。今まで通りのマネージャーの仕事をして、ちょっくら俺の娯楽の手伝いをしてくれればいい。」

「…どうして…。」

「どうして?んー、何となく?富布里みたいにマネージャーサボるとかしないし、俺と顔そっくりだから色々使えそうだなって思って。後は忍足と結構いい雰囲気じゃん?忍足は俺に玖城を許してやってくれって言ってきたぐらいだからな。俺って結構友達思いなんだぜ?」

「忍足侑士…が……。」

「で、どうすんだ?なるのか、ならないのか。」

「……なるわ。藤ケ院君の駒になってあげる。」

「うっし。分かった。今日からお前は俺の可愛い手駒だ。俺から離れず、命令に背かず、誠心を見せな。」

「分かってるわよ。紫木風に言うなら我が君?」

「止めろこそばしい。俺のことは藤ケ院さん。成実さん。成実ちゃん。どれかで呼べ。」

「じゃあ藤ケ院ちゃんって呼ばせてもらうわ。」

「さっそく逆らってんじゃねぇか。」

「あら、私は元々反抗的よ。手を噛まれないように気をつけてね?」

「ご忠告傷み入るぜ。さて、これからがある意味正念場だ。」

「は?」

「…この顔の言い訳を考えねばならん。お萩に殺される。」

「………。」


後日談。
玖城と共に、滝の下へと向かい、二人でいろんな言い訳を連ねた。滝はそれに対し呆れたようにため息をついただけだった。
それから玖城は滝に、それから紫木に、悪態を付いてしまった彼らに頭を下げて謝った。
それから玖城はクールぶる必要が無くなり、心から楽しそうに仕事をしていた。成実は満足そうにその様子を眺めた。

「藤ケ院ちゃん。ちゃんと仕事しなさいよ。」

「しておりますよ。玖城さんが悪態をついていないか監視をしているんですよ。」

「私はもう悪態つかないわよ。つく必要が無いから。」

「幸せそうですね。」

「とっても幸せ。ありがとう藤ケ院ちゃん。」

「…自分らそうやって冗談言い合える仲やったけ?」

「侑士、色々あったのよ。ね?」

「はい、色々あったんです。」

「色々って…そこがホンマに謎やわ。」

「「それは、秘密!…フフッ。」」

「……ひぃさんと瑠華が幸せそうなら、なんかもうどうでもええわ。」

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