汝は悪女の深情けなりや? | ナノ


052


「あ、そうだ。オッシーの寝顔いくらか撮っとこ。眼鏡外してー。パシャリー。眼鏡プットでー。パシャリー。」

気絶している忍足を盗撮。目を閉じていてもイケメンとか、撮って下さいって言ってる様なものだろう。

「なんでそんな事してるの?まさか成実、こんなのが好きなの?」

「バカ言うなって、俺は普通に女の子が好きだ。忍足の写真を撮るのは、渡すため。」

「渡す?…あぁ、あの女に?」

「そうそう。玖城の本命は忍足だ。クラスも同じにしてるぐらいだからな。」

「ふーん、あ、そ。」

「うわ、聞いてきたくせにまっったく興味なさげな返事。」

「興味無いからね。あ、もしかして成実が立海に居たとき同じ様に盗撮してたわけ?」

「あ?してねぇよ。俺だってこんなの必要最低限にしたいっつーの。今回はちょっと利用価値がある奴が来てくれたからな…ちょっと、ね。」

「また悪巧みを考えてるね。とっても活き活きしてる。」

「悪巧みだなんて失敬だな。俺はなんでも楽しければそれていいんだ。」

忍足が体調不良で部室にて療養中であることを跡部に伝えた。
どうしてだ?と聞いてくるかなと思っていたが、そんなに興味がないらしく「あぁ、そうか。」それだけの反応であった。好都合ではあったが、何だか可哀相にも思えた。それから成実は玖城に近付くことにした。

「玖城さん。」

「…何よ、ミーハー女。」

玖城さん、と探して声をかけた。玖城は何処に居たかというと、マネージャー室にて一人黙々とドリンクを作っていた。そう言えば紫木も現在気絶していて成実もどこかに行っていたから業務をするのは玖城しか居なかったわけだ。ちょっと悪いことをしてしまったかもしれない。けれど、はめられたからと言ってそう望んだのは玖城だったわけで。

「業務お疲れ様です。」

「何それ、嫌み?」

ただお疲れ様と労っただけというのに、どれだけ成実の言葉に対して毒を含ませた言葉を吐きかければいいのか。

「そう受け取ってしまうのも仕方ないです。そして、罪滅ぼしをさせてください。」

「はぁ?」

「先程、忍足君が体調不良で倒れてしまいました。」

「えッ!?…な、何よ。それがどうかした?体調管理が出来ないなんて、レギュラーとして恥ずかしくないのかしら?」

一瞬動揺したが、すぐ持ち直した。クールビューティーキャラに戻った。とても熱心である。

「なので、玖城さん看病してあげて下さい。」

「なッ何で私がそんな事をしないといけないのよ!それに…私、忍足侑士には……き、嫌われてるのに…。」

「あぁ、それは大丈夫です。私が誤解を解いておきましたから。玖城さんはこうやって真摯に仕事をしてくださいますし、準レギュラー達の意識も改変するほど熱心に語りかけていたと。今まで冷たくあしらっていたのは、緊張からだと言うことを伝えておきましたから。」

と言う風に記憶を書き換えるというチートを使っちゃいましたから。本当は使いたくなかったが、記憶消去したついでに書き換えちゃった。

「本当!?…あ、いや、…ふん、当たり前のことを伝えられても私は反応に困るわ。当たり前の事をしているだけなのだから。それとも何?ここは『ありがとうございます藤ケ院さん。』って言わなければならないのかしら?」

「そんな、恩着せがましい事をしたいのではないのですよ。言ってるではないですか。罪滅ぼしがしたいと。」

はい。ただ恩を売っておこうかと。後々使えそうだから。それに記憶を書き換えてはいるが、それを生かすも殺すも玖城次第である。

「それこそ意味が分からないわ。こんな事をして…何?…もしかして焦っているのかしら?本性をバラされることに対して。無駄よ。こんな事をしても、私は止めないわ。」

「それについては了解しております。その様なことで玖城さんの気が済むのならいくらでも、告げ口なさってください。」

「あっそ!強がってんじゃないわよ!後悔しなさいミーハー女!」

強気で飄々と答えると玖城の怒りに触れてしまったようでちょっと怒鳴られてしまった。
しかしミーハーミーハーと五月蝿い。鳴き声か。

「私には藤ケ院成実と言う大切な名前がありますが。」

「ミーハー女にミーハー女って言って何が悪いのよ。」

「まぁ、お口の悪いこと。ではミーハー女さん?さっさと忍足君のもとへ行ってください。」

ちょっとした反抗である。ミーハーを隠している玖城であるため、ただの事実を口に出しただけだという。

「なッ。」

しかし、玖城にとっては意表をついたようでちょっとばかし驚いた様子を見せた。

「違いました?紫木さんが玖城さんの事をミーハー女だと言っていたのでそうだと思ったのですが。」

「ッこの性悪女!まぁ、いいわ。私ばかり仕事をするのも癪に障ってたし、忍足侑士の看病行ってあげる。いい?しかたなくだからね!渋々、嫌々だからね!」

渋々、嫌々、を強調する。真実をはっきりと把握している成実に対してその様な言葉を予防線を張っても意味はないのだが、それを知らない玖城にとってはとても重要な言葉らしい。

「はいはい、理解しておりますよ。では行ってらっしゃい。」

成実は深々とお辞儀をして玖城を見送る。玖城はそんな美しい成実の所作に目をやることはなく早々に出て行ってしまった。はてさて、玖城から誤魔化しのない言葉を聞けるのはいつになるのだろう。

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