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「何がおかしいんや!」 「ふっふふふ…いや、すげぇ愉快で、滑稽で。ポーカーフェイスファイターと名高いオッシーが俺如きで感情を出したことが嬉しくて、誇らしくて。」 笑いも収まり、成実は合わしていた目を伏せ表情を整えた。そんな様子を見て忍足は、大手をかけたと確信し勝ち誇った顔をした。 「図星やったんか?」 「大方正解だが…及第点、と言ったところだな。60点。再試ギリギリ。オッシーは一つ、大きな間違いをしてっからな。それを正解させねぇと、優をあげることはない。」 「…間違いやと?」 「あぁ、間違いだ。俺はそんな氷帝の滅亡なんて大それた事なんて考えてねぇよ。」 「…やったらこんなに引っ掻き回して何がしたいんや。」 「単純明解な動機だが……今はまだ教えれねぇ。教えたいのですが時期が早すぎだ。ちょっと、オッシーには…忘れていただきましょう。」 「ッ!?」 成実は伏せていた目を見開き忍足と目を合わせた。成実の目は、なんだか人の目ではなかった。形容し難いものであったが、あえて言うなら神の瞳の様だ、と。 神々しさ、見透かされるような感覚から逃れようと忍足は目を逸らそうとしたが、腹を割って話し始めてから成実によって固定されていた。 手を振り解こうとしたが、忘れてはいけない。成実も忍足と同様に男子であるという事。そして、演技には体力を要するため、負けないぐらい鍛えられているという事。つまり振り解けるわけがなかった。 「もう少し我慢してくださいね。」 「はッあぁ…いぁぃやや、うぁ゛っひぁあッ。」 忍足は足掻いてみるが無意味であった。声も絶え絶えに絞り出したが、言葉にはならず口を開くことでだらしなく唾液が口の端から伝っていた。 「あ、後改変させて……はい、終わり。お疲れ様でした忍足君…っと。」 成実が普通に戻った瞬間、忍足は膝から崩れ落ちた。成実は倒れてきた忍足を支え、ゆっくりと地面へと下ろした。いつまでも女子の成実が男子の忍足を支え続けていたらおかしいからである。 さて、ここからどうしてやろうか。とりあえずそこでずっとこちらを見ていた人に話しかけるとしましょうか。 「……そこに居るあだ名神の子。ちょっと手伝ってくれねぇか?」 「あは?バレてた?」 呼ばれてしまい、死角となっていた場所からひょこっと姿を現した幸村。それから成実の近くまで歩いてきた。 「バレバレ。俺様をなめんじゃねぇよ。ユッキーも余裕で知ってんだろ。」 「うん。知ってる。」 「つかお前、ここに来ても良いのかよ。立海の部長さんよぉ。」 「俺が良いと思ったから良いんだよ。だって俺、成実のその目好きなんだもん。」 衝撃の事実。忍足は目を背けること、逃げることに躍起になるような代物であったのに、幸村はそれが好きだという。 「それはそれはありがとう。この目は梨花んとこの神様の物だけどな。貸し借りできるって神様って便利だな。」 「だから言ってるんじゃないか。俺、結構熱心な信者だよ。」 衝撃の事実そのA。幸村は神様の信者だという。そんな態度一向に見せなかったというのに。むしろ、紫木をからかい続けて丸云年と言っても過言ではないくらいだったのに。 「知ってる。それを梨花に伝えれば良いのに。そしたら梨花も優しくなるぜ?」 「愚問だね。突っかかってくる紫木が面白いんじゃないか。」 歪んだ愛情。これ如何に。 「確かに…見てる俺らっつーかレンレン達はハラハラだろうな。神様の祟りが下るっつって。」 「大丈夫だよ。俺、神の子だから。」 「まぁ…祟りはそう簡単には落ちねぇけどな。」 「祟りは大安売りするものじゃないからね。さて、これから成実に媚び売ろうかな。それ、連れて行くから貸して?」 「お、下心は満載だが、自ら動くその姿勢は評価するぜ。」 冗談半分。本気半分。 それでもどうだって構わないものだったため、成実は支えていた忍足を幸村の方へともたれさした。それから忍足を持ち上げ、部室へと運んでいった。部室へ入るとそこには寝ている。いや、気絶している仁王が居た。やはり紫木の餌食になっていたみたいだ。その隣に忍足を置く。今回の練習試合。負傷者が多い。 |
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