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声をかけると富布里が肩を大きく揺らした。ぎこちない動きで成実の方を向く。手元を見てみれば宍戸の替えのTシャツをカッターで裂いている最中であった。 「成実、ちゃ…ッ!?」 「貴女がしていること、どう言うことか分かっていますか?何故そう言うことをしているのですか?」 「ぅ……ぁ、ぁ…の……ぇと。」 「言い訳は考えなくてもいいんですよ?言葉を詰まらせるような場面ではないでしょう。今貴女がやっていることを客観的に、今貴女が思っていることを率直に言えばいいのですから。」 一歩、また一歩と成実はゆっくりと富布里に近付く。 「んで…。」 「お腹の底から声を出しなさい。聞こえませんよ?」 「なんでなんでなんでなんでなんでなんで!ァンタばっかり良ぃ思ぃしてんのかって言ってんのぉ!ァンタみたいなブスがぁ!景吾達にチヤホヤされてることが意味分かんなぃ!なんなの!?ァンタもトリッパー!?聞ぃてなぃそんなの聞ぃてなぃ!ァンタはなんの特典を付けたのょ!!まさか逆ハー補正!?ぁたしだって付けたのに!ァンタが全部邪魔するんだ!邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔邪魔!ァンタなんか邪魔なのぉおお!!」 分かり易く富布里がキレた。盛大に勘違いをしながら自分は人外なんだと白状した。別に成実に白状したところで成実はある意味関係者なのだから意味はないのだけれど。跡部達が居ないことが悔やまれるシーンだった。 「富布里さん。落ち着いて、落ち着きましょう。感情的になっても良いことはありません。壊してしまった物は仕方ありませんから、正直に誤りま……富布里さん?」 折角フォローに回っていたというのに富布里は俯いたまま。成実が名前を呼んでも無反応。 「んだ…。」 小さく呟いた。呟いて未だに持っていた宍戸のシャツを離してカッターを両手に構えていた。 「は?」 一瞬の出来事だった。 「ァンタなんかッ、死んじゃぇばぃぃんだぁぁああああ!!」 殺さんとする勢いで富布里はカッターを構えながら襲いかかってきた。成実は驚きの余りか、微動だにする事が出来なかった。 「はい、そこまで。」 「!?」 カッターが振り下ろされそうになった瞬間、誰かの腕が成実とカッターの間に構えられた。刃は成実には届くことが叶わず、腕に止められた形となった。そしてカッターを持っていた富布里の手の甲を叩き、カッターは床に軽い音を立てて落ちた。足で弾き遠くへ飛ばす。呆気にとられている富布里の体を流れるような動きで滝は拘束した。 「ナイスタイミングじゃん?お疲れお萩。」 成実は滝に話しかけた。誰も居ないときに見せる態度を富布里の前で表す。まるで富布里を空気と扱っているよう。 「お怪我はありませんか?主様。」 「チョー健康体。バリ元気。」 「……ぇ、は?へ?はッ萩之介ぇ…?」 突然現れた滝に心底驚き抵抗すら出来ない様子。 「下女如きが僕の名を呼ぶな。」 「そーそー、お萩の名前を呼んで良いのはこの俺だけ。お分かり?」 |
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