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サンドリヨン[Cendrillon] 03


少し時間を遡り、場面は撫子がまだ舞踏会のバルコニーで天を仰いでいるところであった。先ほどの撫子と日吉がバルコニーで話しているところを静かに見ている男が居た。その男が中心となり、話が進んでいた。

その男も同じく仮面を付けて一見誰だか分からない。唯一の特徴としては右目の際に泣きぼくろがあると言う事。

「さっきからうぜぇ、メス猫どもが俺様と踊りたいだのなんだの…身分をわきまえろよ。この俺様と踊るなんて何万年も早ぇ。こんなつまらない舞踏会参加するんじゃなかったぜ。何考えてんだか…。」

密かに帰ってしまおうと男はバルコニーに出ていた。そしてその後、人が来てしまったため帰るタイミングを静かにそっと息を潜めてタイミングを見計らっている。いったい誰が来たというのか。目を凝らすと見知った顔の日吉が一人の女性と話している姿が男には映った。

「……あいつは…この国の王子……そう言えばまだ挨拶していなかったな。しかし、女と話込んでやがる…真面目な王子だと思っていたが…外したか。」

(―――――――優しい殿方なのでしょう。喜んでお受けいたします。)

日吉に向けられた鈴の音が鳴っているかのように思わせる優しい声色が耳についた。撫子はただ囁いているだけであったのに、男の耳にははっきりと伝わった。それを聞いた時、男の中の心が高鳴った。

「なんだ?この昂ぶりは。…こんなこと今までにあったか?いや、なかった。この俺様が誰かも分からないメス猫に一目ぼれだと?フン、笑わせてくれるぜ。」

そんな悪態をついてみるも男の視線は撫子に向かっている。撫子が踊っている姿をジィっと見つめている。

「なっ!?」

それから見てしまった。撫子は日吉の心臓に刃を衝きたてる瞬間を、
知ってしまった。撫子があのサンドリヨンだと言うことを、

この男は恐怖するのだろうか?
いや、しない。しなかった。悲惨な現場を見て口元を押さえて吐き気を制しているのかと思っていたらそれは違う。感極まって思わず大声を上げてしまう事を抑える動作であった。それから日吉の息が止まるまで暫くの間身を潜め、その後ゆっくりと日吉に近づき、撫子に投げ捨てられたナイフを拾い上げ男は眺めた。

「ハ…ハハハハハハ!面白れぇ、面白れぇぜ!ファーハッハッハッハァ!」

男の声に気付いた従者が男に話しかけた。

「どうしたのですか?…ケイゴ様。」

「あぁ、カバジか…見てみろよ。こいつ殺されてるぜ?」

「…そう、ですか。オオトリさん。この城の執事達に知らせて…下さい。くれぐれも、事を、大きくしないように。」

「う、うん!分かった!」

跡部から短く、その言葉を聞いた樺地は、他の従者である鳳にも伝え静かに事を運ばせた。

「ケイゴ様は…犯人を、見ましたか?」

「さぁ?見てねぇぜ?」

跡部は代わりに、と言いたげに手に持っていたナイフを樺地に手渡した。

「そう…ですか。」

「ところでカバジ、シンデレラという娘はこの舞踏会に来ていたか?」

「……はい、確か彼女も孤児の為、この舞踏会には参加していました。…それがどうかしましたか?」

「いや…なんでもねぇ。カバジ…俺も開くぜ。パーティー。いいよな?」

「ウス…。」

跡部は自分もこの様な舞踏会を開くと宣言をしてそのままバルコニーから帰宅する。帰宅しようと階段を下りていくとそこには無造作に脱ぎ捨てられているガラスの靴があった。それを拾い上げる。
拾い上げて馬車に乗り込んだ。

「よほどお転婆な女だな。シンデレラってやつは…そんなメス猫今までに見たこと無かったぜ。っと…仮面を外してなかったな。」

跡部は自らがつけていた仮面を外してそれを見た。

「クククッ…実に滑稽じゃねーか。今の俺の心境とよく似合ってるぜ。」

その仮面はニコリと笑っているようで、しかしその笑いは見様によってはピエロの表情だ。何処か狂気じみている。そんな狂気じみている表情が自分とそっくりだと自虐した。
人一人を殺した女に一目惚れだなんてどうかしている。どうかしているのだが、そんなものは跡部にとっては些細なことだ。些細なことで、自分の人生を狂わせようと模索しているのだ。それが狂気でなくてなんというのか。
跡部はその仮面が気に入り、再び付け、そのまま自分の城へと帰っていった。

城に帰った跡部。自室に向かい上着を脱ぎ捨てソファーに腰かける。

「ケイゴ様…。」

白いシャツ一枚になった跡部に樺地が羽のように軽い、手触りの良い上着を差し出した。

「あぁ、ありがとな。カバジ。」

跡部はそれを受けとった。
しかしこれは偽りの主従。偽りの主従関係。偽りの慈しみ。義務として、演じているだけというもの。
跡部は付けていた仮面を外して樺地に手渡した。それから持ったままでいた硝子の靴を見つめる。見つめて数秒、跡部はそれを大きく振りかぶってオレンジ色の炎が立ち込めている暖炉に投げ込んだ。
オレンジ色の炎に包まれて赤く溶け出す硝子の靴。シンデレラの唯一持ち物と言っても過言ではなかったのに、跡部は大切に保管することなんしなかった。シンデレラを探す唯一の手がかりであったというのに、それを跡部は消した。何故なら、サンドリヨンが自分のところに現れると確信していたから。
ガラスの靴が、暖炉の中で、灰にうもれながら赤く溶けていく様子を見て跡部の体が身震いした。

「ハァぁ…いいじゃねぇか。」

硝子の靴を壊してやった。シンデレラの一部でも自分が奪ってやったと錯覚させた。そんな思いが跡部を支配する。
沸々とそんな思いが跡部のすべてを支配して、自身の顔で狂気じみた表情を浮かべ狂ったように声をあげた。

「ハハハ…ファーハッハッハッハッハ!ハハハハハ嗚呼、総て奪ってやるよ。お前から何もかも!シンデレラ!いや、サンドリヨン!!」

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