サンドリヨン[Cendrillon] 01 |
※シ/グ/ナ/ル/P様のサンドリヨンを管理人的に解釈した文章となっております。 もう直ぐ日付が変わる。 もう直ぐ12時の鐘がこの時間を夢の一時であったと言うことを証明するかのように鳴り響く。 撫子はバルコニーにて外を眺めていた。 後ろでは賑やかな、煌びやかな舞踏会が盛大に開催されている。今は男女ともに仮面を付け相手が分からないままワルツを踊っている。それがこの舞踏会のメインイベントであると言っても過言ではないだろう。 相手が貴族だとか、 地主だとか、 どこかの王様だとか、 公爵、伯爵、子爵、男爵だとか、 孤児だとかも分からない。身分を隠して彼ら、彼女らは滑稽に踊る。 しかしこれも一時の夢。朝までの、鐘が鳴り響くまでの一時の幻。それは撫子もしっかりと認識している。その楽しげに踊る夢だけを見ていたいと思っていてもそれは無理だということもちゃんと理解している。 撫子は場に合わない深い溜息をつきそうになったがそれをぐっと堪え、バルコニーから見える満月を静かに眺めた。 この漆黒でありながら煌びやかなドレスも、 暗闇でも己の存在を主張しているティアラも、 輝きを放ち周りの人を惑わせる。 それが一手段。 それが一番簡単な方法で、そして一番残酷な方法。 「女、そこで一人何をしている?」 「…あなたはどなた?」 仮面を付けて顔を隠している男が撫子に声をかける。撫子は静かに振り返り誰だ?と尋ねた。 「それを聞くことはこの時間に関しては無粋な質問だとは思わないか?」 「…ですわね。私としたことが失礼な真似をしてしまいました。」 「いや…いい。それよりも…シンデレラ。俺と踊ってはくれないか?」 撫子に申し込む。しかも撫子も仮面を付けているようにシンデレラと確信して。どうして知っているのだろう。 それは簡単、この男シンデレラに恋をしているのだ。所謂一目ぼれ。 シンデレラに魅了され、心を惑わされ、奪われた男。 勿論それは想定済み。計画通り。撫子はその男を惑わすためにその男の好きな女性の雰囲気、仕草、そういったものを用いて過ごしていたのだから。 撫子は微笑み、その男の手を静かにとった。 「嗚呼、こんな私を誘ってくださるなんて優しい殿方なのでしょう。喜んでお受けいたします。」 薄暗くなっている大広間。音楽隊によって刻まれる音楽が大広間を包んでいた。小さい声はかき消されてしまうだろう。 撫子は男と踊りながら――をどのタイミングで実行に移そうかと思案する。 そしてこのタイミング、 踊りながら先ほど居たバルコニーに一番近づいた瞬間を狙って男に合わせて踊っていた撫子は動きを止めた。ぴたりと、ぜんまいのきれた人形のように。その場にぴたりと止まったのだ。不思議に思って男はどうかしたのかと尋ねる。 「もう…12時の鐘が鳴りますわね。」 「…あぁ、そうだな。この時間が止まってしまえば良いのに……。」 「その思い、この私が叶えてあげましょう。――ワカシ王子。」 撫子は男の名前、ワカシと呟いて隠し持っていたナイフを心臓につきたてた。 「なッァ…?」 何が起こったのか分からない日吉はただただ力が抜けて撫子にもたれ掛かる。撫子はしっかりと支え続きの言葉を紡ぐ。 「どうなさいましたか?ご気分が優れないのですか?バルコニーに出て空気に当たりましょう。」 バルコニーに出て撫子は日吉の体を柵にもたれ掛けさせる。 「グッ…ゥ……!何故…だ。」 ナイフを心臓から抜いていない為出血は少ない。その為、かすかではあるが意識のある日吉。 「私の名前はシンデレラ。よく知っていたわね。そしてコードネームはサンドリヨン。これでお分かり?」 「ッ!?…殺し屋……。」 「そう、私はマザーに依頼されてあなたを殺しに来たただの道具。私を恨まないでね。私は淡々と淡々と依頼されたことだけをこなしていってるだけないんだから。貴方が誰の恨みを買って誰からこういった事を受けないといけないのか、全くわからないの。ごめんなさいね。小さくなっていく貴方の胸の鼓動に尋ねながら眠っていけば?…じゃぁね。王子様。一時の夢をありがとう。」 心臓からナイフを引き抜いてから日吉の動きが全くなくなるまで待つ。最期の最期まで日吉はかすかに動く指先、残された力で曖昧に動く指先で撫子を求めている姿が見られた。まるで一緒に逝ってほしいと縋る様に誘っていた。 撫子はその様子を冷めた瞳で見届ける。そして使ったナイフはその辺に投げ捨てた。指紋も付いていないし、ついているのは日吉の血液。持っていた方が不利になる。それから撫子はバルコニーから外に繋がる階段を逃げる様に三段飛ばしでかけてゆく。 「やっば、もう直ぐ12時過ぎちゃうじゃん!ってぅわ!?」 慣れないヒールを履いて三段飛ばしでかけて行ったら靴が脱げてしまった。拾いに戻っていたらタイムリミットを過ぎてしまう可能性が大きい。 それに脱いでいた方が走りやすい。 靴だけでは個人は特定されないだろうと判断した撫子は硝子でできた靴を階段に放置して、そのまま外で待機している馬車まで走り去った。 |
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