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それから3日間は缶詰であった。 ダンボールに荷物を入れ、業者に渡し部屋の中がとても簡素になった。残っているのはメイク道具とかその辺である。服とかも数着しか残していない。そう、撫子が忍足にギリギリまで田舎に戻っていると言った理由は業者に荷物を預けているところに来られたら面倒くさい事になるからである。アポなし訪問は当たり前であったのだ。 それから撫子はパーティーに参加する上での注意事項的なものもした。台本とまではいかないが、こんな事を言われたらこう返すのが吉。と言ったものだ。それが3日間続いた。 「はい、子猫ちゃん!もし関西訛になって指摘されたらどう答えるか!」 「はい!『え?そう?もしかしたら帰省してたからかも。ほら、岡山って若干大阪弁寄りだし』です!」 「イグザクトリー!次!なんか雰囲気違くない?って言われたら!」 「『化粧は女を化けさせるのよ』です!」 「おkおk!んー…こんな感じで良いかな。よく頑張ってくれた。免許皆伝だよ。」 一通りの回避の仕方を教えて、こんなもので大丈夫だろうと言うところまできた。 「わー!ありがとうございます!けど…滝、にバレないか不安や…。」 「あー…確かに一番の山場だね……まぁ、でも楽しいことには便乗する人だから大丈夫でしょ。跡部のインサイトはあてにならないしねー。」 「とりあえず、心を無心にすればいいんですよね…。」 「うん、そうそう、それが出来ないならサブカル文化についてずっと考えとけばいいよ。それか、ジロー岳人マジ天使って思っとけばいいよ。」 「…はい。分かりましたわ……。」 「じゃ、ドレスアップしようか。遅刻して下手に注目浴びないようにしないと。」 「はいな。」 結構ギリギリになる。会場は9時から入場可能でパーティーは10時からである。撫子としては滑り込み10分前を狙う。 女子にドレスを着てもらってそれからメイクを施す。手際よく、高クォリティーに。 「出来た!どや!」 「流石撫子様…クォリティー高杉や。」 「君の肌が美しいからだよ!さて、タクシーをマンション前に呼んだから行こうか。お嬢様。」 エスコートするかの如く撫子は手を差し出した。 「撫子様、やめてぇな。」 しかしながら女子はいやだったらしい。断られてしまった。 「チェ、執事やりたかったのに」 撫子はちょっと愚痴っていたがすぐに止め、最後色々と残ってあった荷物をキャリーに詰めて玄関までゴロゴロ引いた。 それから玄関を出てタクシーが待っているところまで二人は歩いていった。そしてタクシーが二台連なって待機している場所に到着し、最後の別れを言う。 「じゃ、子猫ちゃん。後はよろしく頼んだ。」 「よっしゃ、よろしく頼まれたわ。」 「最低でも二時間は時間稼いでね。そのホテルから空港まで車で一時間かかるから逃げ切れる。」 「ハハハ、撫子様は夜逃げか何かをするんか。」 「似たようなものだね。」 「さいですか…ほな撫子様。お元気で。」 「うん、また向こうについたらメールでもするよ。」 お互い、バイバイと言い合って二人はそれぞれの場所へと向かっていった。 撫子は空港へ。 彼女はホテルへ。 しばらく二人の目に入る光景は流れゆく街並みである。 「さぁ、ショータイムだ。」 |
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