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「う…麗しい、ですわ…ッ!」 「ははっ、ありがとう。」 「撫子、様!ではあちらに戻りましょう…皆様が、待ってますわ…!」 「あぁ、了解だ。」 もっと蒼の貴公子を堪能していたいみんなだったが使命感を重んじて撫子を先程の告白大会が繰り広げられている場所に戻るように促した。 そうして撫子が運動場に出てみるとドン引きしたい列がそこにはあった。 「何これ、跡部列?」 ズラァアアア、とひたすら長い列が一本。 「アーン?んなわけねぇだろ。俺様の列はこっちだ。それはテメェの列だ。」 「オプス…マジかよ……。」 まぁ、言われてみれば当たり前である。跡部達は撫子が茶化しに来る前から着々と告白され続けていたのだから。それに撫子の列には男子が見える。しかも宍戸以上に…いや、宍戸の列に男子がいたことが驚きなのだよ。 撫子はその列の先頭に立ち、告白を受け始めた。受け始めたのは良いが、とてもむず痒いものである。 「ありがとう、でもごめんね。」と繰り返し言って何度目だろう。その時に跡部達が帰宅し始めた。 「え!?みんなもう終わったの!?」 「やっと終わったと言いやがれ。俺様達はお前が来る前から受けてたんだよ。」 「……酷いですわ、跡部サマ!」 跡部に嫌がらせと言ったらこれでしょう。桃の姫君ボイス。 「消えろ。」 「ぅわ、辛辣。」 「撫子も飽きひんなぁ。」 「跡部が過剰に反応する内は飽きません。」 「そか…まぁ、俺らは終わったから帰るわ。またな。」 「うん、バイバイ。」 撫子はメンバーに手を振って後ろ姿を見送った。勿論、姿が見えなくなるまで手を振っていたかったが、未練たらしい様子になってしまうのと、列がまだまだ長いという観点から手を振るのも早々に止めた。最後の一人までしっかり告白を受け、気が付けば既に夕方である。そして蒼の貴公子からウィッグも化粧も衣装も外し、ただの撫子へと戻った。一つ一つの動作をゆっくりしていたからもう校舎には誰も居ない、告白大会で賑わっていた人達も人っ子一人居ない。 「はぁ…。」 「どうしたんだね撫子君、最近ため息が多いぞ。」 「…あぁ、榊監督……。」 どうやら人は残っていた。残っていたのは榊監督で、撫子に話しかけてきた。 「一年間ご苦労だったな。」 「いえ、こちらこそお世話になりました。」 「どうだった。この一年間は。」 「はい…単刀直入に言うととても楽しかったです。後のコメントはクリスマスイブで行った発表会と答辞と被りますので控えます。」 何回も何回も、同じ事を聞いてくる。先程、職員室に言ったときも他の先生に聞かれた。正直飽き飽きである。 「あぁ、そうだな。初めての試みだったが良い結果が残せて何よりだ。まぁ…全国優勝は出来なかったが。残念だ。」 「アハハハ、監督は来年があるじゃないですか。日吉君率いる新テニス部に期待してあげて下さいよ。」 「む、私の事は言っていない。君達三年生の事を言っているんだ。」 「は…?と言いますと…?」 「三年生は中学での大会は最後ではないか。同じメンバーで高校は行けないのだから、欠けたら寂しいものがあるだろう。」 「…え?みんな高等部行くじゃないですか?」 忍足も滝も跡部も宍戸もジローも岳人もみんな高等部に行くはずだ。 「撫子君、君は行かないのだろう?」 「……私もメンバーとして数えて下さったのですか…。」 「あぁ、宍戸の件もその他裏で頑張っていたではないか。見ていたぞ。」 「…ハハ、見られてたら裏じゃないですよ。」 「そうだったな。」 「……監督。」 少しの沈黙の後、撫子は先ほどよりも姿勢を正し榊に向き合った。 「なんだ?」 「改めてお礼を言わせて下さい。一年間、本当にありがとうございました。」 腰を折り頭を深々と下げた。 「うむ…君みたいな礼儀正しい生徒が居なくなるのは寂しいな。いや…誇らしいと言うべきか。それで何時、ここを発つのだ?」 「卒業パーティーの日の午後2時発の便です。」 「パーティーにも出席しないのか…。」 「はい、あちらからの呼び出しで…その日がギリギリなんですよ。これから色々準備がありますし。」 「そうか…跡部達には結局話していないのか?」 「はい、跡部は何も言わないでしょうが他は……それに私はいきなり登場したのですからいきなり退場しますよ。それが私にお似合いですよ。」 「君がそうしたいのなら、すればいい。私は協力しよう。」 「ありがとうございます。今まで黙っていてくれて…私が発つまでも黙っておいて下さい。」 「了解した。では、撫子君。行ってよし。」 「はい。行ってきます。」 撫子は拝むのが最後になるであろう氷帝学園の校舎を眺めてから学園から去った。 |
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