青春Destroy | ナノ


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「……英和辞典?」

宍戸が英和辞典の存在を知り、そしてキョトンとした顔になった瞬間、ピロリーンといった音が聞こえてきた。その音は言わずもがな撫子のケータイのシャッター音である。

「プスススス、ゴチになりまぁす。」

撮った画像を保存しながらニヤニヤと笑っている撫子は教室の出入り口までズリズリと近づいていく。

「なんで…英和辞典なんだよ…。」

「あ?それお前のだよ。借りたてたじゃん。」

「…だからって今日に、更に、ラッピングする必要性ねぇだろ!」

「必要性あるね!超楽しい!あんれ?お前欲しかった?私からのチョコ欲しかった?」

「誰がいるかよ!」

「まーまー、そんなに拗ねんなって。」

撫子は教室から出て廊下にて逃げる準備万端である。

「拗ねてねーよ!」

「ちゃんと用意してあるから。お前だけミントチョコだよ。感謝しな。」

宍戸の好物であるミントチョコと言う名を聞いて宍戸は少しピクリと反応した。

「…おぉ。」

声も心なしか軽い。

「お前の靴箱の中に入れてあっから。早々に回収することをお勧めするよ。じゃ、ジローに鳳、ばいにゅー。」

撫子は脱兎。宍戸のライジングなダッシュから逃げるため。

「テメェエ!食いもんを靴箱なんかに入れてんじゃねーよぉお!」

しかしながら撫子の予想は珍しく外れ、宍戸は靴箱まで一目散に走っていった。案外食い意地が張っていたらしい。折角鬼ごっこの準備までしたというのに残念である。

「まぁ、中身はでっかいキャラメルコーンをホワイチョコに浸して、デコレーションした幼虫チョコですけど。静かにしてたら悲鳴が聞こえるかな?リアル虫かごに入れたから。」

「撫子…それはヒドイC…けど、俺のは普通だったからいっか!」

「そうそう!宍戸だから許される!…さて、後は……。」

「僕だよね?」

「デスヨネー。ご機嫌麗しゅう滝サマ。」

次は誰のクラスに行こうかな、と悩んでいたら案の定滝から声をかけられた。そう言えば滝はB組で隣のクラスだった。

「はい。撫子、バレンタイン。」

「ヒッ!?…んあ?花束?」

滝からどんな技が繰り広げられるのだろう、と身構えていた撫子。滝が体の後ろから手を回してきた瞬間に撫子は短い悲鳴をあげたが無駄だった。滝の手には小さめな花束。

「そうそう、別にチョコじゃないといけない理由無いでしょ。」

「うんうんうんうん、そんな理由はないですがぁ!滝から贈り物を貰うなんて思わなかった!」

「失礼だなぁ。僕、これでも色々あげた気がするよ?」

「…………あー…。」

思い出してみたら結構貰っていた。ハロウィンとかクリスマスとか。

「忘れちゃうなんて酷いよ。この前あげた懐中時計は今どんな風になってるの?」

「いんやー。このポッケの中に鎮座してるよー。」

撫子は証拠、と言いたげに滝にポッケから出して見せた。

「そっか。電波時計じゃないから時々ズレちゃうかもだけど、ネジ式だから電池要らないからいいでしょ。」

「おうよ。もう肌身離さずだよー。」

「フフフ、それは嬉しいな。あ、あと花束、受け取ってくれると嬉しいんだけど。」

「あ、ありがとう…じゃ私からチョコを献上しますよ!」

滝は撫子に花束を、撫子は滝にチョコを交換するかのように渡しあった。

「チョコも貰いすぎて要らないけど、撫子のだから貰ってあげるよ。」

「御慈悲あざーす!予鈴も鳴ったし、そろそろ帰るねー。」

「待って。」

帰るね、と言って体を翻した撫子の腕を掴んだ。撫子の動きが停止する。

「な、にかな?」

「…深い意味は無いんだ。深い意味は、………。」

滝の顔は下を向いていて表情が読みとれない。いったいどうしたというのか。

「…滝?」

キーンコーンカーンコーン――…。

「よし、鳴ったね。」

滝はチャイムが鳴ったと同時に撫子を掴んでいた手を放した。ついでに顔も上がっておりとても清々しい笑顔である。

「……へ?」

「ほら本令鳴っちゃったよ。撫子のクラス遠いでしょ?遅刻だねぇ交換学生サン。」

「なッ!?嫌がらせか!」

「だから言ったでしょ?深い意味はないって。」

「悦いぞー、悦いぞー!なかなかのS、と見せかけてドS!畜生!…先生ぇえ!椿崎はここにいますよぉぁお!」

撫子は滝の普通に行われるえげつない行為を受け、それからダッシュで自分のクラスまで走っていった。間に合ったかどうかで言えば間に合ったと思う。時間で言えばアウトだが、…日頃の行いって大切だよね。

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