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「Happy Valentine!」 撫子が片手を忍足りに向かってつきだした。 「なんや、デジャヴるなぁ。」 予想通り、と言わんばかりに忍足は撫子にチョコを渡した。撫子はそれを受け取り鞄の中へ。 「サンキュー!当たり前だろ?だって跡部にリベンジマッチ申し込んでんだもん。」 「予想はしとったけど…まぁ、とりあえず非リア充が叫ぶべき言葉叫んどこうか。」 「おk把握。せーのっ!」 「「リア充爆発しろぉおお!」」 「騒がしいですよ。忍足さん、椿崎さん。」 「あ、日吉ちーすちーす。」 「すまんなぁ。俺は撫子の付き添いでここに来たんや。」 「何の用ですか?」 「チョコ、くれ。」 ドヤァ、と撫子は先ほどと同じように手を突きだした。 「………は?」 「ギブミーチョコ!夜露死苦尾寝骸死魔酢駄個裸!」 「戦後の子供ですか貴方は!…チョコなんてありませんよ。そもそもチョコは女子が準備するものでしょう。」 「あ!日吉ぃ、私からのチョコ欲しいんだ?あれだろ?友達同士で『チョコ何個もらった?』『俺、二つー。』『どうせ母親と姉妹とかからだろ。』みたいなやりとりするんでしょ?」 「馬鹿ですか。馬鹿ですね。そんな忍足さんみたいな会話するわけ無いじゃないですか。」 「おい、ちょぅ待ちや日吉。聞き捨てならんで。」 「そうかそうか、ま、君が要らないって言っても押しつけるけどな。Happy valentine!」 撫子は今度は持っていた紙袋から一つ、ラッピングされたクッキーを日吉に渡した。 「……何ですか?これ…。」 「見ての通りクッキーだわさ。友チョコ的な?差し入れ的な?つーか部員の全員作ってきたからみんなに渡しといてー。」 どうやら約200個のラッピングされた物が入っているらしい紙袋を再び日吉に押し付けた。 「はぁ…まぁ、ありがとうございます。」 「うむ、素直でよろしい!そうだ。君に正しいvalentineの知識を教えてやっておこう。valentineは本来、男が女に花束をあげるんだよ。チョコを女が男にあげるなんて日本ぐらいなもんよー。ま、最近では同性間でのチョコ交換が主流だけどねー。で、チョコは?」 「……無いって言ってるじゃないですか。」 「チィ!」 「と言うか今朝練中です。邪魔ですから帰って下さい。」 「わー!日吉部長が怒ったぁあ!」 撫子はふざけながら日吉から後退した。 「日吉、日吉コールはちゃんと思いついたんか?」 「帰れ。」 日吉の敬語すらも奪い取ってしまう忍足。流石だ。 こんなやり取りをして撫子と忍足は自分のクラスへと向かった。 「やけど撫子、勝算はあるんか?」 「あ?どういうこと?」 「やって、今回はハロウィンやないからイタズラを選ぶことは出来んから受け取るだけなんやろうけど…日吉みたいに準備しとらん男子、多いと思うで?」 「…まぁ、予想済みだよそれは。」 「ちゅーか、逆にチョコ欲しいわ。撫子、頂戴や。」 「忍足の癖に催促か!」 「悪いんか!」 「いや、別に。今回は普通に用意してるし。」 撫子はまた別の紙袋から物を取り出し忍足に渡した。 「サンキュや。」 「ん、ホワイトデーは三倍返しな。」 「な、なんやて!?」 「よく考えてみなよ。世の中give-and-takeだぜ?それに、この私の手作りなんだよ?普通にしてたら手には入らないある意味レア物だぞ?」 確かに笑顔動画で人気を博している撫子の手作りクッキーだなんて普通にしていたら手にはいるわけがない。そう考えたら希少価値なのだが…。 「…そうやけど、俺さっきやったやん。」 「侑士ぃ、私ぃ侑士からぁちゃぁんとホワイトデーに何かぁ…欲しいなぁ?」 「うわ、止めてくれへん?ぶっちゃけ鳥肌が立ったわ。」 「テメェ、畜生、このやろう。どういう事だ。剥ぐぞ頭皮を。」 「堪忍したってー。撫子の本性と外見を知った上でぶりっこなんぞぶりっこに失礼や。」 「…声だけなら良かったと。」 「あー…んー、まぁ声だけなら正直萌えたわ。」 「うわぁ…忍足に萌えられてもな。」 「どっちやねん!」 差し障りのきっと無い会話をしてから授業なう。二月となったら受験シーズンがピークだというのにこの学校には焦りが見られない。まぁ、持ち上がりが大半だろうからそんなにも慌てなくてもいいのかもしれない。 |
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