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「撫子君、少々いいか?」 大人達に囲まれて会話が一段落したとき、榊監督に話しかけられた。 「はい、榊先生何でしょう?」 「この後の予定は何かあるか?」 「えっと…無いですけど……。」 「私はこれからパーティーに参加するのだが、一緒に行こうとしていた女性が来れなくなったらしくてな。」 「…はぁ。」 「代わりに私の女性役をやってはくれないか?」 「え…。」 面倒くさッ!面倒くっさ!これ以上畏まらないといけないわけ!?ヤダ! 「ちょ、ちょっと待って下さい!」 世間体の良い断り方。スケジュールを見て断るべし。だがしかし、撫子は先程暇だと言ってしまった。なので、撫子は鞄の中からケータイを取り出した。「あ、すみません友達に呼び出しを食らってしまってます。」作戦の決行である。 「あー…すみま、あ……?」 撫子の言葉が途切れてしまった。 メールが来ていても来ていなくても見るフリをしようと思っていたのだが、本当に一件新着メールがあった。メルマガだろうか、と油断しながらチェックしたら…なんと、送り主は滝。いやな予感しかない。 『榊先生の誘い、断ったら………ね?』 「どうした?撫子君。」 「え、あ、はい!はい!榊先生!どうぞこの私に榊先生の相手役という身に余る光栄的な役目、努めさせて下さい!」 「う、うむ…では少しドレスアップしなければいけないな。」 「ですね。流石に制服は…ダメですね……。」 「好きな色とかあるか?」 「イエ、特に無いです。榊先生に相応しいようなもので大丈夫です。」 「ハハハハ、そんなにも畏まるパーティーではない。忘年会だと言えばそこまでだが、クリスマスパーティーだ。」 「あ、クリスマスパーティーですか。」 「だから猫被りは私の隣に立っている時だけでいいぞ。」 「…アハハ、バレてましたか。」 「あぁ、しかしTPOを弁えた態度は評価する。部活中は元気がよくて何よりだ。」 「ありがとうございます。」 榊先生の同伴をする事になった撫子。滝からのお達しもあったため断ることが出来なかった。あれよあれよと言う間にドレスアップ。 「東京ミュウミュウメタマルフォーゼ!…なんつってー……。つーかこれ何円?いや、何万円?」 …うん、考えることは止めておこう。きっと撫子の貯金を全部はたいたところで弁償は難しいのだから。 「ふむ、中学生には見えないな。」 「ハァ…どうもです……。」 「パーティーに行ったときは私と腕を組んでおいてくれ。なに、顔なじみの者と挨拶周りをするときだけ一緒に居てくれたらいい。その後は好きにパーティーを楽しんでくれ。」 「…はい。」 リア充めいてればいいのですね分かります。それから料理をバカ食いすればいいのですね分かります。まさかこんなダンディーな人とクリスマスを送ることになってしむなんて予想外すぎだわ。しかし監督もよく私なんかを選んだな。もっと年の近い人に頼めばよかったのに、年齢ばれたら監督はロリコン説流れちゃうよ。うわ、忍足と語らえばいいと思うな。 そんな感じで打ち合わせ的なことをして、いざパーティー会場へ。会場内に入ってみての感想。 とても優雅です。 結構な人数が居てガヤガヤしてるのに、なんだろう…慌ただしくないから優雅に見えるのだろうか。撫子は結構な人数を見るのは大体イベントとかだから。そして言われたとおりに撫子は榊先生のパートナーとしてしっかりと参加。 「撫子君、この方がコーポレーション社長だ。」 榊の紹介を受けて撫子は会釈をし、挨拶。 …コーポレーション…海馬? 「撫子君、この方はIT会社の会長だ。」 家元、社長、理事長、会長…。今日だけで日本の重役達全てに出会った気がする。 「すまないな撫子君、酷くプレッシャーだろう。」 「いえ、貴重な人生経験になります。」 「そうか…、次で最後だ。次はそんなに気を張らなくても良いからな。」 「え?…あぁ、はい……。」 気を張らなくて良いと言われてもこんなとこに来ただけでもド緊張だっつーの! 榊先生について行った先に最後の重役が居る。 |
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