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「うわー!可愛い、ふつくしい!ディ・モールトベネ!」 「ハハッ、撫子さんにそう言ってもらえると嬉しいな。」 「何言ってんですかぁ、私の方こそ生でこんな素敵な料理を見れて幸せ者ですよ。まさか柑橘系男児さんとお知り合いになれるなんて思ってもみなかったんですから!」 「大袈裟だな。しかし、こんな人数になると思わなかったからな……足りるか?」 新たに作っていたが、ふと心配するように呟いた。育ち盛りの中学生6人が一気に食べたらこんなにも可愛らしいキャラクター達はものの数分でいなくなってしまう。 「あー…突然お邪魔して申し訳なかったです…。」 「いや、撫子さんを責めているわけではないんだ。」 「そうですよ!撫子様は私が誘ったんですから無罪です。」 「そう言ってもらうとありがたい。」 「まぁ…どうにかなるだろう。最終的には取り合いになるしな。」 「おお!食卓はリアル戦場になるんですね、分かります。」 「まさに戦場だ。っと…出来た。」 出来たと言って出来た物はオーム。笑顔動画で見かけるあれだ。クオリティーがハンパない。リアル過ぎて食が失せると言うこともなく、ただ単に食べたいと中枢が呻いている。 「ぅおおお!パネェ!流石柑橘系男児さん!写メって良いですか!?」 「あぁ、いいぞ。杏、これをあっちに運んでくれないか?」 「はーい。」 出来上がったオームを杏に渡して千歳達が居る部屋へ。撫子と桔平も後に続く。 「柑橘系…じゃない橘君。」 撫子と桔平が二人きりとなり、撫子は改まって桔平の方を向いた。それから姿勢を正して真っ直ぐに目を見つめてお辞儀をした。 「ん?なんだい?」 「あの時、都大会準決勝の時、氷帝に勝ってくれてありがとうございました。おかげで個人個人の力の重要さ、負ける必要性、敗北から学ぶ事を氷帝は知ることが出来ました。マネージャーが出しゃばってこんなことを言うこともおかしいけど、氷帝は負けることで成長させていただきました。本当にありがとうございました。」 「……何を言い出すのかと思ったら、こちらこそ勝たせてくれてありがとう…と言ったら語弊があるが、全国に続く道が出来たようで自信がついたんだ。」 「公式試合って大切だね。勝っても負けても成長させてくれる。でもあの緊張感は試合に出なくてもちょっと苦手だけどね。」 「勝負の世界でどちらか一方だけ、と言うことは無いからな。勝って上に進み、負けて学ぶ。得はあっても損は無い。」 「フゥ!そんな橘君に痺れる、憧れるぅ!世界3大兄貴に名を連ねちゃいなよ!」 「ハハハ、撫子さんは面白いな。」 「桔平ー、食ってよかとー?」 二人が話している間に料理は並び目の前でお預けをくらっている千歳から声が挙がった。 「あぁ、食って良いぞ。撫子さんも行こう。」 「了解!」 撫子も桔平も面子に合流。始めて対峙するメンツが二つほどあったが今はそれどころではない。 「唐揚げは私のものー!」 残っていた二つの唐揚げを撫子は一度にかっ攫った。 「ぁあ!?ちょ、杏ちゃんが連れてきた人!それは酷いですよ!」 「フフン、今は弱肉強食、早い者勝ち、そんな時間なのだよ。残念だったな鬼太郎っぽい髪の少年!」 「なん!?リズムを上げるぜ!」 「あと9分、料理が残ってる時間ばい。」 「千歳君が才気渙発った!」 「嫌んなるよなー、大体ご飯って落ち着いて食べるものじゃないの?なんだよ9分って、まだ食べ始めて20分も経ってないのに…俺さっきからオームの目玉(プチトマト)しか食べれてないんだけど。それよりも橘さんの妹が連れてきた女の人、食い気ありすぎでしょ。男の俺より食ってんじゃん。」 「そこのキューティクル!ボヤくぐらいなら食いなさい!ホラ、鬼太郎君のミートボールあげるから。」 撫子は鬼太郎と名付けた少年の手に持っていた皿からミートボールを奪い、キューティクルと名付けた少年の皿に移した。 「あ!?酷いですよ!」 「酷くない!これ即ち真理!」 「そんな真理嫌です!深司も食うな!」 「へー、良いとこあるじゃん。」 そんな感じで千歳が宣言していたとおり9分で料理達は天寿を全うした。 |
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