青春Destroy | ナノ


225


と再び弁当に箸をのばす。撫子の狙いは最後の一個になった唐揚げ。

ヒョイ――。

「!?」

撫子が掴もうとした瞬間、横から誰かの箸が唐揚げを攫っていった。誰だ!?と思って視線を上げると、犯人判明。攫っていったのは忍足だった。

「忍足…テメェ!」

「ふ、甘いわ!成長期男子は積極的に肉を摂らんとあかんねん。堪忍な(吐息)」

「っざけんなぁ!最後の一個とるとか…ッ私、箸のばしかけてたじゃん!私、チョージ並みに怒るよ!」

「やから堪忍な言うとるやないか(吐息)」

「キーッ!無駄にいい声めっちゃ腹立つ!退魔の剣で叩っ斬るぞコルァア!!」

「形も理も真も無いんにどうやって斬るんや?ん?」

片眉を歪ませてドヤ顔。めっちゃ腹立つ。

「んなもん今から作っちゃるし!形は幼女妖拐!理は幼女をかどわかす事で自分の存在を確かめていた!真は一応イケメン部類なのにモテない事からのストレスによって!」

「な、なんちゅう無理やり!俺、モテとるし!」

「黙れ、丸眼鏡!よって剣を解き、放つ!」

ご丁寧に声を変えポーズを付ける。テラ本物。

「ぶぇ!?」

忍足が前のめりに倒れ込んだ。

「は?私、まだ何にもしてないよ?」

いきなり倒れてきたためこれから何かしようとしていた撫子は焦った。何故忍足は倒れ込んだのだろうと思い、視線を色々な方向へ動かしてみると、ついさっきまでここには無かったビーチボールがコロコロと転がっていた。

「すみませーん!ごめんなさーい!」

遠くから謝る声が聞こえてきた。どうやらこのボールを打ったのは先ほどまで潮干狩りをしていた少年だったようだ。

「あぁ、忍足を倒したのはこのボールか。私に超能力でも宿ったかと思ったよ。」

「フフッ、撫子さんその超能力を持ったとしても僕達には逆らわない方が良いよ?」

「達っすか…うぃー了解。」

不二達のある意味での結束の堅さを改めて認識た。そんな撫子が硬直している中、桜乃は飛んできたボールを拾い少年に渡した。

「あの…これ……。」

「あ、ありがとうございます!加世さん!」

「「「…ん?」」」

「どうしました?薬売りさん。」

「や、の……。」

少年は正しいことは言っているのだが、なんだか少々ずれている。

「あぁ!僕は葵剣太郎と言います!凄いです!薬売りさんに会えるだなんて思ってもみませんでした!」

「えー…。…佐伯クーン!?この子どーしたのぉお!?」

異変を察知し、撫子は佐伯を呼んだ。そして佐伯だけを呼んだはずが一緒にビーチバレーに勤しんでいたメンバーがこちらにやってきた。

「ちょちょちょッ爽やか少年達来るなー!溶ける!溶けてまう!佐伯君だけ来てー!」

「薬売りさんはそんなしゃべり方しないよ?ね、葵君?」

「そうですよ!どうしたんですか?」

不二が剣太郎の発言に悪ノリ、撫子に注意を促す。

「ちょっと!……不二様、調子に乗るのも…そこまでにしていただきたい。」

撫子も悪ノリ。楽しそうなことなら何でもします。それが撫子である。

「わー!薬売りさん格好いい!僕も薬売りさんみたいになりたいなぁ!」

「少年…私の様になっても、良いことなど…ありませんぜ。それでも、なりたいと言うなら…あちらのハイパーの方を参考にすることをお勧めします。」

「ブハッ!?」

撫子は早々にハイパーこと忍足に純粋すぎてコスプレという文化を認知していない少年の世話を押し付けた。いきなり指名された忍足は飲んでいたお茶を見事に吹き出した。

「ハイ!ハイパーさん、どうやったらそんなに格好良くなりますか!?プレッシャーをかけるだけじゃ駄目なんですかね!」

「………。」

ランランとした眼で見つめられる忍足。居心地の悪さに忍足は無言で立ち上がりさり気なく逃げることにした。

「ッ格好いいー!…あ、でも機嫌悪くしちゃった……。」

忍足がその場を立ったことで少し傷ついてしまったようだ剣太郎。

「…少年、あの後を追いかけるといい…そうすれば自ずと分かってくる。」

「え…?でも…俺、嫌われちゃったみたいなんですけど。」

「そいつぁ、安心してくだせぇ…あいつはただ…照れてるだけだ。表裏一体の私が言うんだ、間違いなんて在りませんぜ?」

「本当ですか!?じゃぁ僕、ハイパーさんの後を追いかけます!…ハイパーさーん!…追い付けなかったら一生ハイパーさんみたいにはなれないぃぃいい!!」

剣太郎も忍足に続くようにその場を立つ。撫子と剣太郎の会話の一部始終を聞いていた忍足は撫子をなんとも形容しがたい目で睨んでいた。しかし、剣太郎が立ち上がって近づいてきたため気持ち早歩きで逃げる。

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