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二人が考察をしているとカランとラケットが地に落ちる音が聞こえた。 「精市…本当に使ったのか。」 「うん、あれだけ模倣出来るならイップスもやってもらいたいなぁって思って…身を持って体験してもらうことにしたよ。でも椿崎さんに俺ほどの覇気は無いから無意味だったかなー?」 「……っ…。」 見ると撫子は地面に座り込んでいる。 動かない、動けない。 あー…これがイップスかぁ……本当に何も分からないや。右も左も上も下も、私にはもう関係ない。ラケットを持っているのかも分からない。誰か教えてくれないかな…無理か、聴覚も無いから。…え、これ太刀打ちできなくね?リョーマすごいね。これに打ち勝ったんでしょ?あれか、天衣無縫の極みを極めればどうにかなるのか。無理だろ、開かずの扉だぜ?たかだかテニスを齧る程度しかしたことのない私は無理ですって。オープンセサミなんんてできませんって。仕方ない、幸村君には申し訳ないが試合は放棄させていただきます。あ、これ客観的に見たらエロいよね。五感を奪って拘束とか容易じゃん。歪んだ愛とかヤンデレ、シリアス連載でなら有効活用出来るネタだぜ。ありがとう幸村君。こんな危機にぶち当たってもネタだけは貪欲に収集するぜ。 「撫子さん…。」 撫子がイップスにかかった様子に光景を見てリョーマはデジャヴをしっかり感じていた。 「越前ー、お前ってあれから立ち直って勝っちまったんだぜぇ。すげぇよな、すげぇよ。」 「桃先輩…見てる方ってこんなに不安になるんすねあの技食らってるとこ見て……。」 リョーマはイップスは自身だけでなく、周りに人達をも不安にさせてしまう技であるということを実際に体験することになった。この後、幸村が技を解けばすぐに復活すると分かっていても、思い人がこのような事になっている様子は見ていて苦しい。 リョーマが心配そうに撫子を見つめていると、幸村がサーブを打つことを止めてネットの方へ駆け寄ってくる姿が見えた。 「あれ?ちょっとヤバい?」 「「「へ?」」」 幸村がネットを飛び越え撫子のもとへ。撫子は座り込んでいた姿から完璧に倒れ込んでいた。 「椿崎さん、椿崎さん?あ…息止まってる。やっちゃった。むしろ殺っちゃった?」 「「「は、ぁああああ!?」」」 ギャラリーも撫子に近づいた。 「撫子さん、撫子さん!」 「さ、参謀!どうするべきなんじゃ!?」 「どうするも何も貞治がAEDを既に取りに行っているし、心臓自体は動いているから気道確保の上、人工呼吸しかないだろう。」 ピシリとその場の空気が固まった。 「アーン?誰だするんだ?俺様はいやだ。」 「俺、するっす。」 「俺がするっすわ。」 「や、俺がするわ。」 立候補したのは撫子の大ファンな越前、財前、白石の三人。 「「「……………。」」」 「先輩の俺に譲れや。」 「ねぇ、何言ってんの?撫子さんは俺のことストライクっつってたんで撫子さんも好みの俺にされる方が本望だと思うんですけどね。」 「チビがなに言っとるんや、俺と撫子さんは押し倒した仲なんやで。お前らより一歩進んだ関係なんや。」 「光、おまっ先輩にお前らって何やねん。それに自分の出来事は事故やろただの事故やろ!」 「だったら俺も撫子さん押し倒したことあるし。勿論意図的にね。」 「「なんやて…!?」」 やんややんやと撫子の頭上で言い争い。 と、その時。 「なんかBL臭がする!」 そんな戯言をぬかしながら撫子は勢いよく起き上がった。撫子の頭上で言い争っていた三人は必然的に撫子の頭によって顔面強打。 「「「ぐぉおおおッ!!」」」 「……なにが…起こった?」 撫子の頭は石頭だったようだ。少々痛むがきっとイップスにより倒れ込んでしまったからだろうと心の中で整理。そんなことよりも目の前で顔を押さえて悶えている三人は一体どうしたというのだろう。 「撫子…知らん方がええこともあるんやで?」 「なんだそれ。」 「……フラグクラッシャー椿崎。」 ぼそりと仁王が呟いた。 「ん?なんか言った?」 「や、なんも。」 「撫子さん、気分は大丈夫か?」 「マスター……うん、ちょっと頭が痛いだけかな?」 「椿崎さん、ごめんね?やりすぎちゃった。」 上目遣いなポーズをする幸村。 「くっそ、美人さんだと怒る気になれねぇよ!許しますよ!むしろ許さないと言う選択肢はない気がする。」 「そう、ありがとう。」 「もうこんな時間だ。ホテルに戻らないか?」 柳に言われ時計を見るといつの間にか6時を過ぎていた。 賛成、と言う声があがりホテルに戻る。 |
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