青春Destroy | ナノ


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鬼も友達三人で楽しみたいからとか言って、その場を離れてくれればいいものを。入江という男子の発案に乗っかりやがった。女子が一人なのがいけないのか。そうか。これも全部、あいつのせい。今度絶対なにか奢らせる。絶対にだ。

「改めて、僕の名前は入江奏多。鬼とはテニスの合宿で知り合って、友達になったんだ。よろしくね。」
「徳川カズヤだ。」

「ご丁寧にありがとうございます。椿崎撫子です。」

改めてご挨拶。踊り連からかなり離れ、花火が打ち上がる予定の河原で腰を下ろした。まだお昼のため、人もものすごく居る訳ではなかった。もう少してここも人がゴミの様だ現象が起こる予定である。

「まさか、こんなところで撫子に会うとは思わなかったぞ。どうだ?元気してるのか?」

「うんまぁ、色々あって元気してるよ。私今氷帝学園行ってるんだよ!東京人!こっちにはたまたま帰省してたんだ。うん、たまたま。」

「へぇ、君、氷帝学園に行ってるんだ。残念だったね。一回戦で負けちゃって。」

入江という人物。危険人物だと分類。人の嫌がることを平気で言いやがる。心をえぐってきやがる。

「ぐ…そ、う、なんですよ…私なんかが悔しいって言ったらレギュラーの皆に申し訳ないから言わないの、だけれど、ね。」

「撫子ちゃん。もしかして喧嘩別れしちゃった?だからこっちに帰ってきているのかい?」

「うわぁあああああああああ!うわぁああああああああああ!!たかがマネージャーの私が悔しいなんて思ってないもん!私は戦ってないんだよ!?私にそうやって悔しがる権利なんてないんだもん!!一生懸命頑張ったあいつらに私は悔しいなんて言っちゃいけないんだもん!他人にとやかく言われたくないでしょう!?入江さんも!悔しいね、とかさ!戦ってないお前に何がわかるんだって言いたくなるでしょう!?言っちゃダメなのに!私は言っちゃたんだ!それから罪悪感が強すぎて逃げたんだよぉお!私は、私はぁあああああ!」

入江の攻撃が的確に撫子の気持ちを抉った。入江の一撃に容赦などなかった。

「おや、図星かい?若いねぇ。」

「入江ちょっと黙ってろ。撫子大丈夫か?」

思わず鬼が庇う。そりゃ小さい頃からの知り合いがこんなにも取り乱したら落ち着かせたくもなる。

「兄貴ぃいい!私跡部に最悪なことしちゃったよぉお!!私なんか悔しく思っちゃいけないのに悔しくて跡部に八つ当たりしちゃったよぉおおどうしよおおお!!!」

「落ち着け。大丈夫だから落ち着け。何があった。詳しく話せ。な?」

「兄貴ぃ…。」

鬼に諭されて、撫子は事の展開を話した。どこから話そうかと思って迷っていたが、そもそも何故氷帝学園に通っているのかというところから話した。プロジェクトで交換転校生をしているということ、マネージャーになった経緯。宿敵と出会って誤解を解いたということ。色々なテニス部に出会ったこと。レギュラージャージをもらったということ。時間を少し用いたが、全部話した。話終わって、鬼が口を開いた。

「撫子がテニスをまた好きになれたことの方が嬉しいな。」

「ちょっと鬼?論点ずれてるよ。ねぇ、撫子ちゃん。君はなんでそんなにも頑なにテニスを嫌っていたようだけれど、どうしてなんだい?宿敵というのが絡んでいるんだろう?教えてよ。僕も徳川もそこが分かってないから助言のしようがないよ。」

「…私は小学校の頃はテニスをしていました。」

何故か流れで話してしまうことになった。有無も言わさぬ入江の戦術が怖い。

「へぇ。経験者だったんだ。だからそんなにも選手の心理状態を大切にしているんだね。」

「はい…まぁ……。」

「それで君は悔しがっちゃダメって言ってるんだね。」

「だってそうでしょう?戦ってもいない人が戦った相手に悔しいなんて言うの、失礼でしょう?」

「確かにそうだよね。でもそれって経験者じゃない人に言われたらの話でしょ?」

「別に、違いなんてないんじゃないですか?」

「経験者だったら別に言われてもいいんじゃないかな。僕はそう思うけど。確かにその時戦うことはなかったかもしれないけど、悔しいと思うことは戦ってなくても思うことなんじゃないかな。君の持論だと監督も悔しがっちゃいけないことになるよ。監督も実際に戦ってないんだから。」

「監督は違うでしょう!監督は選手のために練習メニューも考えて、指示を出して、時には叱咤激励をして、チームの空気を作って、厄介なレギュラーをまとめて、生活を部活に貢献してる時点で監督は悔しがってもいいんです。」

監督は最高責任者ということもあって、悔しがってもいいんだ。榊監督が悔しがる姿なんて考えられないが、監督は選手と一緒に悔しがっても、泣いてもいい資格がある。だから入江の言う監督も悔しがってはいけないという意見に対しては違うとはっきりと言う撫子だった。

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