青春Destroy | ナノ


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跡部達と喧嘩別れをして、撫子は久しぶりに帰った岡山で、羽を伸ばした。
家事をしなくていい毎日。ネトサをするだけでいい毎日。なんて素敵な毎日なんだ。夜更かしをしたら怒られるけど、どうせ田舎に帰っている今だけだし、我慢できないほどではない。

そして今日は何の日か。そう、本日は政令指定都市である大きなお祭りがあるのだ。その名はうらじゃ。
うらじゃとは、政令指定都市にて行われている夏祭りのことである。古くから伝わる鬼神「温羅(うら)」の伝説を元にしたものであり、名称もそれに由来する。全国的には発祥時期に開催ムーブメントとなっていたYOSAKOIの一種として扱われるが、これに分類される他の祭りと比して、異なる点も多い。踊りに参加する人が全員、顔に化粧を施すのが特徴である。
一番の見所はなんと言っても踊り連。様々な団体が嗜好を凝らした踊り・衣装・メイクを披露する。踊りは一年を通して練習し、一糸乱れぬ美しい連が披露される。衣装は数十名の団体が一同に同じものを着ているため、圧巻される。和装とも呼べるが、一概に言えず、何と表現するべきか迷うが、ヲタクなら嫌いじゃない格好である。メイクも鬼を表現した奇抜なのもあるが、蓮の花を描いていたり、色とりどりの顔料で目を縁取り、一人一人写真に収めたい衝動に駆られる。メイクは誰でもが行いたくなるもののため、お祭りには「温羅化粧を体験してみませんか?コーナー」があるぐらいだ。

撫子も毎年、踊り連に参加しているが、今回は参加せず、一般参加である。そもそもこの時期に戻ってくる予定なんてなかったから。そういう訳で、田舎の友達と夏祭りに参加することにした。

そして案の定というか、なんと言うか、…二人でメイトに行って、それから人ごみの中に特攻して…離れ離れになりました。
結構簡単に迷子になります。参加人数や、一般客が収容される通路が狭すぎて混雑をしているから。それにさほど大きくない駅のせいで、夏まつりが終わった後の帰宅ラッシュでは、思うように電車に乗れず、ホテルに一泊する羽目になるともっぱらの噂の混雑ぶりである。

「こういった状況って始めから一人で来たと思って楽しめばいんだよね。」

いや違う、それは夏コミの楽しみ方だ。
撫子はとりあえず、電話をかけてみた。これだけ混雑する中、繋がるか不安があったが、雑音混じりではあったが、繋がった。

「あ、もしもし!?今どこ?…え?何!?聞こえん!…ハァ!?おまッ今なんつった!?は、彼氏!?は待、おま、いつの間にリア充にッ待って!ねぇ!待ってッ…この裏切り者ぉおおおおおおおおおおおおお!!私はこれからお前が苦しんで死ねるように努力すっぞ!!ああああああああああああ!?マジで切った…万死。」

友達の話を要約すると、バイトがあるからと一緒に来れないでいた彼氏と偶然にも会うことが出来たから、彼氏と行動する。ということだ。
撫子は友達に彼氏がいることも知らなかったので、とても裏切られた感覚でいっぱいだ。強制ぼっちにされたという悲しさよりも、教えてくれなかったと言う怒りでいっぱいだ。
これからどうすればいいんだ。ぼっちで楽しめばいいのか。いいんだな。そうか…そうか。

「それとも逆ナンでも待てばいいのかなぁあああああああああ!?」

嘘ですごめんなさい。烏滸がましいにも程があるし、知らない人怖い。

「おう、撫子じゃねぇか。何やってんだ?」

これからどうしてやろうかと思考していた時に後ろから誰かに話しかけられた。しかもとても低い声。女子ではなく、男子の声だ。誰だ。元クラスメイトか?

「誰ッ…て、兄貴だぁああああああ!!兄貴ぃいい!久しぶりなんだよ!兄貴ぃいいい!!」

そう、兄貴である。鬼の兄貴。西海の鬼じゃないよ。鬼だけど。鬼十次郎。高校生である。孤児院の子供達のヒーローなんだよ。

「相変わらず元気だな。」

年の差もそんなにないのだが、鬼が人生を達観しすぎて、むしろ子供達と触れ合い過ぎて、撫子の事も子供扱いする。頭をぽんぽんと撫でられて、撫子はとても幸せそうな顔をした。
何故ならば、撫子は撫でられる立場でないからだ。いいか、背の高い女子男子を落としたくば、頭をぽんぽんと撫でてみるがいい。それだけでフラグが立つから。

心に余裕が出てきて、周りをよく見ると、鬼の後ろには男子がもう二人いるではないか。誰なのだ。こんな恥ずかしい姿を見ず知らずの誰かに見られた。とても恥ずかしい。

「元気が取り柄っすから!っと…こんにちは…です。」

「鬼にも女の子の知り合いが居たんだね。こんにちは、撫子ちゃん?」
「…こんにちは。」

一人がとてもDの人の声に聞こえる。絶対にDの人だ。Cの人は居ないのか?居ればいいのに。

「ああ、撫子。メガネの方は入江と言う。もう一人は、徳川だ。二人共、テニス…ってテニスする奴は苦手だったな。」

「え?そうなのかい?」

「や、違ッ治ったよ!大丈夫!今はテニスする人苦手じゃないよ!むしろ私がテニス部のマネージャーしてるんだよ!」

「ほう?それはよかったな。だが何故今更マネージャーなんてしてんだ?」

「あー…うん。話せば長くなるから…ほら、兄貴。友達待たせてんだから行きなよ。うらじゃ楽しむために来たんでしょ?」

「確かにそうだが…。」

「いいじゃん鬼。話聞こうよ。むしろ僕は興味あるな。なんでテニスする人が苦手だったのか。ねぇ、一緒に祭り楽しもうよ。撫子ちゃん。一人なんでしょ?」

パターン黒。滝属性です。
確定ではないが、滝属性の匂いがする。嫌とも言わせぬ雰囲気を醸し出す人物だ。鬼とは別の意味で、威圧感を放っている。

「……はい。」

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