青春Destroy | ナノ


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「……………………お疲れ様。」

撫子は下を向いてしまった日吉に言葉をかけた。跡部や忍足も集まり日吉を囲う。

「はい……っ。」

終わった。
簡単な言葉だけど、三年にとってはとても重い言葉。最後の大きな大会で上へと進むことが出来なくなった。考えるだけで苦しくなる。撫子自身戦ったわけではないけど、悔しさが伝わってくる。悔しい。ベストを尽くしたはずなのに悔しい。

――帝、氷帝氷帝氷帝氷帝氷帝氷帝―――――

氷帝コールが響く。いつもなら俺様オーラを放ちながら指を鳴らしコールを止める跡部だが、今回は静寂を求めるかのように静かにコールを止めた。それぞれバックを背負い、コートを離れる。
途中青学のメンツと視線がいくらか合う。悔しいからと言って睨みつけてはダメだろう、不快な思いはさせてはダメだろうと思い、苦笑いをしながら手を軽く振った。桃城だけはザマァプギャァと言いたげな表情で撫子を見ていた。
桃城お前…鬼畜属性相手の総右側な。しかも複数。楽しみにしておけ、冬コミには絶対にがしてやるかなら。ふざけんなよ。バカにすんなよ。

長い長い夏休みが始まったが、氷帝テニス部の栄光への道は終わった。こんな長い休みどうやって過ごせばいいんだろう。今まで休みの日は部活に明け暮れて朝早くから夜遅くまでコートの上で過ごしてきたのに、それを今日からする必要もなくなってしまった。
そうだ、マネージャーもここで引退すればいいんじゃないかな。三年だし、大きな大会も終わっていい言い方をすればひと段落したわけだから。まだここで引退しなくても、一度田舎に帰る必要はあるから。

「あ…跡部。」

「なんだ?」

「私、岡山に一回帰省するよ。」

「今、言うべきことなのか?」

「KYかもしれないけど、伝えなきゃいけないことでしょ?」

「…勝手にしろ。」

跡部から発せられる言葉の節々に苛立ちが混じっている。たしかに負けてイライラしてるのかもしれないけれど、それを君が発するのは少しお門違いだと思うんだ。

「跡部…さっきから殺気立ってますけど、それを私にぶつけるのは止めてほしいな。」

「アーン?マネージャーだったら精神的なケアもするんじゃねーのかよ。」

「しますさ、…けど今のあんたのは単なる八つ当たりだ。跡部はあの手塚とやりあって勝ったんだ。君は誇りに思うべきだろ。」

手塚に負けて団体戦にも負けてしまったのなら甘んじてその怒りを受け止めよう。しかし跡部はあの手塚に勝ったんだ。だからそれは誇りに思うべきなんだ。それなのにイラついているということは、跡部以外に頑張ったメンバーに対して怒りをぶつけているようなものだ。

「だがな!負けたんだよ、氷帝はッ青学に!なんで責めない!お前も、テメェ等も、クジで青学と当たるようにしてしまった俺をよ!」

跡部は青学と一回戦で当たったことを自分のせいだと感じているらしい。

「跡部…君を責めたからって全国に行けるの?行けないよね。それにクジで決めたのにどうやって跡部を責められる。インサイト使いながらクジを引いたとなると責めるが…そんな事無いでしょ。責められて、あんたが謝って?それって逃げじゃないの?」

「…ッ。」

「あんたの今の言い分は勝手すぎる。君だけが青学に負けて悔しいんじゃない。むしろあんたより日吉や忍足、岳人、ジローの傷の方が深いはずだ。君は手塚に勝って白星を収めてくれたのに、自分達は黒星を捧げてしまった。自分達のせいで全国に行けないって。だからあんたは日吉達を慰めるべき立場であって、怒る立場じゃない。」

「黙れッ…!」

「あーそーですか、黙りますよーだ。」

「お前の顔なんて見たくねぇ、…失せろ、岡山でもどこでも行けばいいじゃねーか。」

「もち、そうしますよ。最後に言わせて。もし私が君達を慰めたとする。声をかけたとする。その言葉が君達には届くのか?試合にも出ていない女が、慰めたところでそれを聞き入ってくれるのかい?違うよね。こんな役立たず、要らないよね。さようならへなちょこキングと愉快な仲間達。」

跡部以外のメンツが何か言いたげな顔をしていたが撫子は気にもせず家路についた。実は前々から帰省の準備はしていたから帰った瞬間にその荷物を掴んで駅へと向かう。そのまま岡山行きの新幹線に乗り込んだ。数時間後には懐かしの我が家に着く。空いている席を見つけて座った。荷物も置いて、それからとても長い溜息をついた。

「…………ハァァアアア…私ってホント、バカ……。」

跡部にあんな事言っちゃったよ。一番八つ当たりしてたのは、私じゃないか。一番動揺したのは私じゃないか。なんだよ、あれ。ホントなんであんな事言ったんだ私。なんで突き放すようなこと言ったんだろ。マネージャーなら支えてあげなくちゃいけなかったのに。どんなに言葉が通らなくても、ちゃんと労うべきだったのに。跡部が正しいじゃないか。跡部は部長なんだよ。今まで散々重いプレッシャーをかけられて。全国行けて当たり前みたいな空気の中で君臨しなくちゃいけなくて。一番、辛い跡部を私は八つ当たりの対象にしちゃったんだよ。私が一番傷は深くないのに。試合に出た訳じゃないのに。なんで…なんで私は、優しい言葉をかてやれなかったんだろう。言葉は沢山知ってるのに、それを言えないだなんて…私はバカだ。あの場から逃げるとか私は最低な人間だ。

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