青春Destroy | ナノ


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鳳宍戸のランデブーを見た数日後のこと。撫子がドリンクを作ってコートに行くと汗だくで意気消沈した滝の姿があった。こんな滝を見たことがない。いつも優雅に蠱惑的な笑みを浮かべて人を手玉にとって嗤っている滝がこんな姿になるわけがないのだが、どういうことなんだ。

「え、ちょ…滝!?」

ドリンクを放りだし滝に駆け寄る。どうしたの?と聞いても反応がない。すると近くにいた岳人が教えてくれた。

「宍戸が…来て、滝をさ……倒したんだよ。そしたら監督が滝の替わりにレギュラーに入れたのは日吉でさ…今、納得がいかないからって追いかけていった…。」

岳人も動揺しているのだろう。たどたどしい口調で言った。

「監督ー!?酷くね!?それ酷くね!?だって滝様を倒したのって宍戸なのに!あ、日吉おめでとう。」

「はい、でも不本意です。」

「ですよねー!ちょっと私も直談判行ってくるよ!」

駆けだして宍戸と監督、そして鳳を発見。何かを訴えているようだ。この距離ではまだ聞こえてこない。全力疾走して近づくことに専念する。するとどうだろう。宍戸が土下座をし始めた。

「ってギャァアァアアア!?」

撫子が見たもの…それは、宍戸が乱暴に自分のキューティクル満天の自慢の髪の毛を根元からバッサリと切り落とした所。

「なっ…椿崎!?」

突然現れた撫子に驚いている宍戸。

「たかが私が登場しただけでビビってんじゃねーよ!私の方がビビってんだよ!なんで髪の毛無いの!?」

「無くなってねーよ!」

「監督!どういう事ですか!?」

「撫子君…マネージャーならば監督の私に意見は述べないでほしいものだな。」

黙れよド鬼畜教師のヅラ野郎が。あ、なんだかこれ団長じゃね?クリソツじゃね?偉いところとか、冷酷なところとか。あと冗談通じなさそうなところか。ヅラなところとか。ほらそっくり。今度から団長っつって呼んでやろう。

「監督…では一介の生徒として言わせていただきます。生徒としてなら聞き入ってくださいますよね。先生は生徒の言葉に耳を傾ける義務がありますし、生徒は自分の意見を先生に訴える権利がありますから。たしかに監督の、氷帝学園の実力主義は素晴らしいと思います。敗者は切り捨て、当たり前です。敗者に居場所なんてありません。氷帝のように200人も部員が居るならとても効率がいいです。私だってそんな提案をすると思います。そして今回確宍戸…君は負けました。言い訳なんて出来ません。あろう事か公式試合の準決勝で敗退という氷帝にとっては不名誉でしかない事をしでかしました。しかし今回滝君に勝ちました。なのに日吉君をレギュラーに入れた。おかしくないですか?ねぇ、監督。何故、日吉君を入れたのですか?日吉君も言っていました。レギュラーになれたのは嬉しいが複雑だと。その気持ちを抱くのは監督にとっては戯言でしかありませんでしょうけど。耳に届かないと思いますけれど。この私の言葉だって届いてないんでしょうけど。そんな事はどうでもいいんです。監督。私はこう言いたいのです。宍戸はシングルではなくダブル――。」

「もう良い…流石撫子君だ。私が見込んだことはある。宍戸、二度目はないぞ。」

行ってよし。そう自己完結をして榊は去っていった。

「…勝手に納得して行くくんじゃねーよ!なにがもういい…キリッ、なんだよ。なにもよくねぇよ!とりあえず宍戸、レギュラー復帰おめでとぉ!」

「お…おぉ……椿崎…お前、猫被りすげぇな…。」

そう言えば対先生用キャラは見せるのは初めてだったか。

「当あたり前じゃん、私先生の前ではいい子ちゃん設定だもん。…ハッ!?そうだ、なんで切っちゃったのよ!髪の毛!あんなにキューティクル抜群なあああ!」

「なんで椿崎がそんなにショック受けてんだよ。切ったもんはしょうがねーだろ。」

自慢の髪だったのにすでに割り切っている。

「うぁああああああ!私まだ宍戸の髪で遊んでなかったのに!ツインテールしてリボン付けて、ついでにメイクして遊んでなかったのに!」

「は?」

「ウワァアアアアアンッ!監督め…ちょっと復讐してくるよ。手始めに髪の毛をバリカンで剃ってやる。あ、もうヅラだから毟ってやる。再起不能なまでに毟ってやる。医療料のヅラだと信じて毟ってやる。」

「…止めろって、オラ部活戻れってマネージャーの仕事放って来たんだろ?」

「うん……あ、そうだ。これは教えといてあげるよ。」

「なんだ?」

「滝様…相当ショック受けてたからね。呪いの一つや二つ覚悟しといた方が良いよ。」

宍戸の表情がピシッと固まる。

「じゃ、ガンバ。」

助けてあげたいけど、私も自分の身が可愛いんでね。それよりもなんで宍戸は滝をチョイスしたんだ。岳人とか狙えばよかったのに。まぁ、天使を狙った時点で宍戸、お前は私を永遠に敵に回すことになるのだがな。けれど、一番敵にまわしちゃいけない人を宍戸は選んだ…そうか、宍戸はドMか、ドMなんだな。

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