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「椿崎…先輩、これ…冷やして下さい。」 無言の車内の空気を破ったのは樺地だった。樺地が撫子に対して冷えたタオルを差し出してきた。 「あぁ…ありがとう。……もしかしてさっきの見てた?」 「…は、い…跡部さんも。」 「あーぁ、変なとこ見られちゃった。」 「先輩…は何故、あんな事…言ったんですか?」 「…んー…マネージャーだから?ほら私、元々テニスやってたでしょ?だから試合に負けたときの悔しさってよく分かる。周りに無駄に励まされたらイラつくだけなんだよ。放っておいて欲しいんだよ。そんなのは分かってた。でもあそこで放っておいたら、もう…宍戸はテニス部に戻ってこない気がしてさ。まだ、宍戸はレギュラーに復活できる。できる要素が有る。それを摘み取りたくなかった。」 もちろんその要素っていうのは鳳とのダブルスの事ですがね。あんなに仲良いのにダブルス組んでないなんて絶対おかしいもん。組んだら絶対強いのに…何故誰も気付かない!あんなにCP要素がパーフェクトなのなかなか無いよ!? 「ふん…よく分かってるじゃねーか。しかし分かんねぇな、何故殴らせた?」 「あの後自暴自棄になって壁を殴ったりしてもおかしくなかった。だから壁より柔らかい人を殴らせた。柔らかくても人殴ったらそれなりに痛いし、だから壁殴るって発想を消すために殴らせました。」 名誉の負傷だよ。 「ハッ、よくやるなお前。」 「これでもマネージャーですから。精神面でも支えなきゃ。後日頃のお礼かな?散々…あれだし。あぁ、跡部…今更だけど、ユニフォームありがとう。」 「……………フン。」 さっきまで撫子を視覚の中に捉えていた跡部だったが視線を外しまた外を見始めた。 「……先、輩…着いたようです。」 外を見れば家の近所が見える。樺地に言われ降りる準備を始める。 「じゃ、お疲れ。また明日ね。」 「はい、先輩…こそお疲れ様、でした。」 撫子は降りて二人を見送る。見送って家の鍵を鞄から出そうとしたときに気が付いた。 「あ…タオル。」 樺地から借りたまま返すのを忘れていた。 「…明日返せばいいや。」 次の日学校へ持って行き朝、樺地に返した。余談だが、撫子は最後までそのタオルに『ATOBE』と筆記体で刺繍がしてあることに気が付かなかった。 そしてその放課後、不穏な影が二つ。 「んふ、来ましたよ氷帝。」 「…やっぱ帰りませんか?」 「何を言ってるんですか裕太君、次ここと当たって負けたら僕達は関東大会行けないんですよ?」 「…それは分かってますけど、観月さん…徹底的にしごくいてくれるんじゃなかったんですか?」 「えぇ、もちろんしっっっかりしごきますけど…それは選抜ですよ。他は案外伸びないものですからね、データで賄うんですよ。僕のデータを頼りに、鵜呑みにしてくれる単純な人居るんですから。」 「……ハァ…。」 裕太はなんで自分はついてきてしまったんだ、と後悔していた。 |
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