青春Destroy | ナノ


011


「ふぁーあぁ、クソ寝み…。」

撫子は朝練が有るか無いかが分からなかったから、とりあえず朝の7時前に学校に来ていた。7時前に来たら確実だろう。むしろ学校が開いていないかもしれない。けど、まぁ、無断欠席するより早く来ていた方が評価的にもいい気がする。
しかし周りはまだほの暗く、部員の姿も見られなかった。

「まだ、誰も来てないなぁ…朝練無いとか?マジで…ェー、そんなので全国レベル?嘘ー…それともこれが王者の余裕?むしろ金持ちの余裕?このお坊ちゃま学校め!爆発しろー!ついでにリア充も爆発しろー!」

やり場のない怒りをリア充にぶつけることにした撫子。理不尽と言う言葉がぴったりである。

「…おはようございます。椿崎先輩。」

そんな感じで騒いでいるところに日吉が現れた。第一部員発見である。

「あーあ゛ーあ?おはよう…えーと日吉。」

「早いですね。」

「え、そうなの?実際朝練って何時から?」

「7時30分あたりからですよ。でも自由参加です。レギュラーになりたいって真剣に思ってる人しか来ませんよ。基本、レギュラー陣は来てません。実際、最近朝練に来てるのは俺ぐらいしか居ません。」

「なん、だと…?もしかして、私が来たのって無駄だった?」

「そうなりますね。」

「ん?でも最近は君しか来てないってどうやって朝練してんの?一人じゃラリー出来ないよね。」

テニスは相手が居ないとラリーも出来ない。って言うか、一人で朝練とか空しすぎるだろう。もしかして日吉はぼっちなのか。ボッチなんだな。

「ラリー以外でも出来る事知らないんですか?筋トレや壁打ちだってランニングだっていくらでも一人でできますよ。先輩無知ですね。」

撫子の中でボッチ確定の瞬間である。先輩にもこんな悪態をつくなんて、同級生にはもっと厳しい態度なのだろう。これはあくまで予想だが。しかしこの流れるような暴言は使いこなしている。絶対にボッチなんだ。孤高の浮雲なんだ。

「ハァ!?私に無知って言った!?言ったな!?」

忘れられがちであるが、撫子はテニス経験者である。

「事実じゃないですか?元文芸部だと聞きましたよ。テニスについて何も知らないんですよね。」

「知ってるし!知ってるし!」

「何を知ってるんです?もしかしてラケットでボールを打つって事をですか?」

「違うし、全部知ってるし!球出ししてやんよ。出してやんよ。お前の取れない様な所に打ち込んでやんよ。」

「それは楽しみですね。」

「楽しみにしとけよ!ああ楽しみだな楽しみだなぁあああああああ!!」

後輩に、喧嘩を売られ、買いとった。しかしブランク、長いのでお手柔らかにヨロシクオネガイシマス。イヤマジで売り言葉に買い言葉だったんです。悪気は無かったんです、ほら後輩に罵られるってなんか屈辱的じゃないですか、だから反論したくなっただけで。しかもこの子二年のくせに準レギュラーじゃないですか。ヤダーレギュラー候補じゃないですかー。三年ブランク女vs全国レベル準レギュラーって月と鼈、孔雀とひよこ、ひよこが死角に打ったとしても絶対拾えるでしょ。いや、拾えない方がおかしいでしょ。ド畜生謀ったな。転校二日目にして大恥をかかなければならないのか。イジメだ。学校の闇だ。誰の陰謀だ。白状しろ。あ、私だテヘペロ。

「…本当に出来るんですか?」

そんな撫子の心境もちょっとだけ汲み取ってくれたのか、日吉が気遣ってくれた。いや、ただ疑っているだけかもしれないが。

「………出来るよ!…多分。」

「…とりあえずサーブは差し上げます。」

今更出来ないと言うものなんだか癪だったので、出来るとだけ言っておいた。そんな台詞を聞いた日吉は撫子から離れてコートに入った。続いて撫子もコートへ。
久しぶりに立つコートはとても広く感じた。なんだか懐かしいが、とても胸糞悪い気分になった。思いっきり舌打ちをしたくなったが、この怒り、ボールに込めて打ってしまおうと撫子はボールを高く放り投げ、一番高い打点から日吉目がけて打ち抜いた。

「どっせい!」

女にあるまじき声をあげたが、そんなことは知らない。とりあえずこの燻るイライラをボールに込めて打ちます。そんな怨念の籠ったボールだったせいか、日吉は打ち返すことが出来ず、見送る形となった。

「…速いですね。」

「ドヤァ。次行くよ。」

同じようにサーブを打ったが次は拾われてしまった。先程の見送ったのはただ完全に油断していたからだった。

「けど拾えます。先輩、テニス経験者だったんですね?」

「しがない経験者ですよっと。お前が馬鹿に出来る程度のな。」

会話しながらでもラリーは続く。

「小学校の頃にやってたんですか?」

「……そうだよ。二度とやるかと思って辞めたけどねぇ!!」

「つっ……。」

打球が重い。女子のくせに日吉がつい唸ってしまうパワーのボールを打ってしまうなんてどんな化け物だ。

「あ、重かった?メンゴメンゴ。」

唸った日吉の声を聞いて撫子はちょっとだけザマァと思ってしまったのは内緒である。

「……いえ…。」

「テニス自体は辞めて3年位経つけど、体力作りはずっとやってるよ。ダンスって結構体力いるんだよね。歌も肺活量も要るし。ダイエットもしたかったしね。」

質のいい動画をうpするためにはその位の努力はぬからないんだぜ。

「色々と頑張ってるんですね。」

「でも私の目的は不純なものだし。日吉みたいにレギュラーになりたいって思って努力してるのってかっこいいよね。日吉君は年下だけど生意気だけどそこだけはアイリスペクチューだよ。」

「べつに努力してるってわけじゃ…。」

誉められて顔を赤くする日吉。その瞬間を見逃さなかった撫子。

「デレktkr萌えー!」

「……………………。」

予鈴が鳴り、撫子と日吉は朝練を止め教室の方に戻る。

「ありがとうございました。あと先ほどは失礼しました。」

「いやいや、こっちこそ乱れた球しか出せなくてごめんね。やっぱり三年のブランクは埋めれないね。」

「いえ、三年もブランクがあってあれだけのラリーが出来るなら十分じゃないですか?」

「そう言ってくれるよ嬉しいね。」

「こちらも良い経験になりました。」

「うむ精進したまえ!私はもっとテニスに対して拒否反応でも出るかと思ってたけどそうじゃなかったから一安心!んでね日吉よ。見返りっちゃーなんだけど、『あんこ、うぜ』って言ってくれない!?」

あんこうぜ、とはお兄ちゃん鬱陶しい。ウザい。その他諸々罵り言葉である。撫子は決して日吉の兄でも姉でもないが、駄目絶対音感が唸ったのだ。日吉はノル君に似ていると。

「え?」

しかし元ネタの知らない日吉は頭の上にクエスチョンマークを浮かべるしかできない。そんな日吉を見て撫子は意味の無い台詞ってことで言うだけ言えよ。と言う空気を醸し出していた。

「だからー『あんこ、うぜ。』りぴーとあふたーみー。」

「あ、あんこ、うぜ?」

「っ…………リアルノルあざす!じゃね、ではまた放課後。アリーベデルチ!」

「…………。」

撫子の事がよく分からなくなった日吉少年であった。

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