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「遠山君は一年生なのにレギュラーだなんて凄いわね。」 「遠山君なんて呼ばんといてや、なんかくすぐったいわぁ。」 「じゃー…金ちゃん?」 「おん、それでええで!」 心が浄化されるような眩しい笑顔をありがとう。今この時だけ邪念が払われるよ…と言いたかったが無理だ。本能が抑えきれない。かぁいいんだもん!かぁいいよぉ!!かぁいいすぎんだよ!金ちゃん!!金ちゃん!き ん ちゃ ん !!おん持ち帰りぃいぃいい!!はうあうあうー!耐えてぇ!!お願い私の理性ぃいぃぃ!!本能よ、しーずーまーれー! プルプルと欲望に耐えながらドリンクを金太郎以外に配り始める。 「ッ…………ん?」 すべての人に行き渡ったはずなのに撫子の手元には一つだけ余った。もう一度確認するために見渡してみるが、全員片手にボトルを持っている。では撫子の片手に納まっているボトルはどちら様の? 「一本余ってしまったのだけれど…もしかして予備のボトルだったのかしら?」 「あぁ、それはひかるのや。」 疑問に答えてくれたのは謙也であった。何当たり前のことを言っているんだ。と言いたげな表情であったが、初対面でしかない撫子に対してそれは常識でも何でもない。むしろ『ひかる』って誰だ。 「ひかる?」 撫子が気持ち首をかしげながら謙也の顔を覗いた。すると謙也の顔色はすこぶる悪いものになっていた。何故そんな表情をする必要があったのだろうか。 「あぁ、椿崎さん。それは二年の財前ひかるのや。」 一向に謙也から答えは聞かれず、白石が代わりに応えてくれた。財前ひかる。本来ならその人のボトルらしい。しかし今は居ないようだ。 「財前さんの親戚?」 「せやで!!ひかるとひかりはいとこ同士なんや!」 「そう、親戚どうしで同じ部活に入っているのね。その彼は、今日は来てないの?」 嘘!?あの美人遺伝子を持ってる男子が居んの!?是非ともお目にかかりたいんですけど!!対面きぼんぬ! 「いや…体調悪いって言って今は…休んどる。」 「それはお気の毒に……もしかしてその財前君が赤也君と言い争ったって言う?」 「…せや。」 「そう…。」 そいつか!?私がこんな目にあったきっかけを作ったのは!どんな奴か面見てやろうと思ったのに。 「…財前君って財前さんのことが好きなのね。マネージャー自慢であんなに褒めるんですもの。」 ヤバいて、ヤバいて!!美男美女カップルっすか!?うはー!!禁断の愛!?いや、いとこなら四親等だからセーフだ。しかも同じ部活で部員とマネージャーってどんだけフラグたててんの!? 「ハ…ハハハハ……。」 「でも居なくて良かったと言うことになるのかしら?財前さんが体調が悪いって知ったら練習どころではないものね。不幸中の幸いね。」 「せやな…。」 「財前さんは財前君が居てくれた方が良かったかもしれないわね。」 「なんでや?」 「だって私が背負って部室まで連れて行ったんですもの。財前さんはきっと財前君に運んで貰いたかったと思うわ?」 「ブハァッ!!」 と吹き出したのは謙也。何故こんなタイミングで噴出しているのだ。思春期男子。思い出し笑いすることはエロいことを妄想していると言う事なんだぞ。 「どうしたの?忍足君。」 「おま、ひかりを背負ったんか!?」 「えぇ、何か問題でもあったかしら?」 「いや、あらへん…クッあらへんよ…。」 何、この不審者。本当、何で笑っているの。笑いのツボってなんなの。大阪人は笑いにはシビアでちょっとの事じゃ笑わないイメージがあったけど、そうでもないのか? …ハッ!?もしかしてこの忍足って人も財前さんの事が好きだったのか!?だから財前君が財前さんの看病を出来なくてザマァとか思って笑っていたのか?確かに看病しますって言ったら親戚が立候補しやすいもんな…。ってことは背負ったって言ったから反応したのか…。おんぶも男のロマンだよね。お胸様が密着することで当たる感じ。…でも財前さんのお胸様は慎ましやかだったな…うん。コレ以上は表現しないでおくよ。 「椿崎さん、ドリンクありがとな。」 いきなり白石がお礼を言ってきた。なんだ、突然に、と驚いたが、謙也との会話を強制終了させるためだったようだ。時計を見てみるともう休憩時間は終わってしまっていた。 「いえ、これがマネージャーの仕事ですので。長々とお喋りしてごめんなさい。では失礼。」 撫子の去っていく背中を見つめる。姿が見えなくなりここは四天宝寺のメンツだけとなった。そんな中、納得しない様な表情を白石は浮かべた。 「…あんなに礼儀正しい子がいじめにあってたなんて不思議やなぁ…。」 |
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