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「まぁ、なんでもいいすわ。お…私もうちの分のドリンクを作りに来たんや…。」 スルーしてくれた。ありがとう財前さん。実は心優しい子なんだね。ありがとう。私も二度とこんな気まずい雰囲気にならないようにこんな動作しない様に気を付けるからね。 しかし財前さん顔色がテラ悪い。赤くなったり青くなったり。証拠に仕事が速いというマネージャーと言う話なのに手元がとてもゆっくりだ。体調が悪いのだろうか? 「財前ひかり…顔色が悪いけど大丈夫なのかしら?手元もおぼついて無いようだけれど…。」 「ぇ、あ…その………実は熱っぽくて…。」 「え?何故練習試合に参加を?」 「……マネージャーの義務やから…。」 「ッ!?」 なんてマネージャーの鏡なの!? そんなとってもいい子がこんな無理をするなんて、私耐えられるわけないじゃない!こんな頑張っている子こそ、甘やかされるべきだと私は知っている。むしろそんな法則が無くても私は適応させる。そう、この瞬間。この空間だけは私が法律である。 だから可愛い財前さんは甘やかしても大丈夫。 「財前さん部室で休んでいて、私が全部するから。」 「…やけど。」 「無理して倒れたら元も子もないわ。私から言っとくから、ほら行きましょ。貴女は動かなくてもいいから。」 「え?動か、ぅわ!?」 撫子は財前をいきなりおんぶをした。軽々だ。同じような体格ならとりあえずおんぶすることぐらい他愛もないのだ。 「ちょっ、椿崎さん!?」 降ろしてもらおうと少々暴れる財前。 「暴れないで、大丈夫。落とさないから。ほら、怖くない。」 ニコリと話しかける。顔は見えないが…。諦めたのか暴れるのをやめ大人しくする。 「……………。」(そういう問題とちゃう。) 二人は部室にたどり着き撫子はテキパキと簡易ベッド(長いすをくっつけただけ)を作りここで横になっておくようにと財前に言う。 断る理由も無いので指示に従う財前。財前が横になったことを見届けた撫子は満足げに頷いて、それから出口へと向かった。 「では、私は部長達に伝えてくるから財前さんは大人しくしててちょうだい。」 「…はい。」 撫子は部室を出て行った。 一人になった財前。ここは人は居ないから素に戻る。大きなため息がその瞬間聞こえてきた。 「ッ……ハァーー…。 なんでホンマに立海にはマネージャーが居るねん。しかもなんや?ホンマ、ハイスペックやんあんなん二次元にしか居らんやろ。しかも俺より身長高いってあり得へんわ。居らんかったら俺もこんな事せんと試合できたんに…ハァ。」 ブツブツと文句をたれる。と言うかいきなり口調が砕け、多弁になった。その言葉の端々から毒を巻き散らしている。なんと言う事か。キャラづくりをしていたと言うのか。なんと面倒くさいことをこの女子マネージャーはしているのだろうか。いったいどういう事なのだろうか。しかし今はそんなこと問題ではない。問題なのはこれからの事である。 本性を現した財前がふと、机の上を見てみるとiPodが置かれてあった、興味がある。パスワードもかかってないし、人が戻ってくる前に元あった場所に戻せばいいと思い中身を見てみることにした。 「あ…これめっちゃイタいiPodや…。」 机の上に放置されていたiPodを手に取りいじり始めた。 入っている曲はアニソン、キャラソン、ボカロ、それからただのJポップが入っている。しかし、ここまでイタイ曲しか入っていないのだからイメソンだったりするのだろう。予想が簡単についてしまった。 「…これ誰のやろ。あ…俺の作った曲がめっちゃ入っとる……。これ相当ヲタクやな…誰のやホンマ。ちょっとお知り合いになりたい気がする。」 そしていじりまくっていたら動画も入っていることに気づく。 あれよあれよと出てくる腐向けなウフンな動画たち。それからBLドラマCD。まぁ、自重しないモノ達が溢れかえっている。これは見せてー。と言って目の前で弄りこれをみたら妙な笑顔で「あ、…ありがとう。」とぎこちなく堪えるしかないだろう。そんな物体が財前の手中にあるのであった。 「……これ、持ち主腐っとるわ…女子のか?女子って言うたら椿崎ちゅー人しかおらんよなぁ。確か。…もしかしてそいつ腐女子なんか?何が完璧なクールビューティーやねん。女子として腐っとるやん。腐っとっても許せるんは撫子さんまでや。あんな万能人間に惚れん奴は居らへんやろ。 ……撫子?そういやぁ椿崎さんも撫子つっとったな…。いやあり得へんやろ。本名で活動てないない……よな?………………え?ちょい待ち撫子さんもアイツも身長170オーバーで…。もしかして本物の撫子さんなんか!?え!?ホンマどうしょう!!ホンマもんやったら俺…ッ!!…次ここに来てくれたとき聞いてみよ。これで違っとったらバラすでっつって脅して口止めすればええか…。」 決意を表明し手に取ってあったiPodを見つめる。そしてなんだか、邪な思いが財前の脳内を駆け抜ける。ゴクリと喉を鳴らして、ジィィと見つめる。 「……撫子さんの私物…。」 撫子は部室を出てウォーミングアップをしている部長コンビに話しかける。 財前を撫子の判断で休ませたのだから報告、連絡は必須事項なのである。 「幸村精市に白石蔵ノ介。伝えたいことがあるの。」 「なんだい?」 「ん?なんや?」 「財前ひかりの気分が優れないようだったから部室の方で安静にしてるってこと。いいわよね?」 「お、おぉ…すまんな。」 白石は財前が邪悪な思いを察して苦笑を浮かべる。どうやら白石は財前の本性を把握している様だ。 「はい、だから四天宝寺のマネの仕事も私の方で担う事になったわ。」 「…おおきに。」 「では、ドリンクの味はどうしたい?皆、普通が良い?薄目が良い?濃いめが良いのかしら?」 「えっと…一本だけ濃いめで後は薄めにしたって下さい。」 「分かったわ、では二人とも失礼したわ。」 |
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