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メンバーが揃いつつあった。部室に入ってくる面々が撫子をガン見する。そして撫子もガン見する。 う、わー!みんなイケメソじゃーねぇの!?髪長くて…え?女子?いや、男子だよね。きれいな髪だなぁ…ツインテールにしてもよろしいかしら? む、でかい…何だよこの部活平均身長でかくね?見下ろされるのなんかやだな。 ツンデレ臭がする!?ママーきっとこの人ツンデレだよー。 ふ、ふつくしい!ほんとに男子?うわー、女辞めてぇ…。 うむ、かけ算のしようがないぞ?黙って私を見ないで、会話だけでもいいからコミュニケーションを図れよぉお!後は妄想するからさー! 「揃ったな。これからミーティングを始める。まずは新しくマネージャーをしてもらうヤツを教える。昨日忍足が言っていた奴だ。おい、女挨拶しろ。」 「えー、この度マネージャーになることになってしまいました。椿崎撫子です。色々と劣ることもあるかと思いますがよろしくお願いします。」 「何畏まっとんで撫子。今更パンピぶんなや。」 「さっきから辛辣だぞ眼鏡、殺して解して並べて揃えて晒すぞ。」 「黙れ。女、これからこいつらに自己紹介してもらうからな。一回で覚えろ。」 「命令すんなイケメソ。……いいや、自己紹介よろしく!」 「宍戸亮。」 「よろしく宍戸。」 ツインテール予備軍が宍戸。 「鳳長太郎です。よろしくお願いします。」 「はい、よろしくお願いします。」 つられて敬語になってしまった。謀ったなチクショー。 「あ、俺二年なんで敬語は要りませんよ。」 「………っ。よ、よろしく。」 長身で年下、で敬語……………いいかもしれない! 「二年日吉若です。」 「よろしく日吉。」 「フン。」 ママー、リアルツンデレだよーまぶしいよー。 「滝萩之助だよ。よろしく。」 「よろしく。滝。」 美人さんが滝…と。 「美人だなんて照れるなぁ。」 「え?」 「そうそう、僕でかけ算するのは止めてね?」 ニコリと滝は微笑む。どうしてだろう心無しが寒い。 「また今度考えながら善処しまーす。」 答えは全部いいえですけど。 「椿崎さん?分かった?」 「了解いたしました滝様。」 咄嗟に心臓を捧げるポーズ。敵に回したらダメだ。 「樺地崇弘…です。」 「よろしく樺地!」 謎の安心感ゲット。 「さっきも言ったけど向日岳人だぜ!」 「岳人ぉ!可愛いよー!俺の嫁ぇ!」 「撫子、それ侑士と同じ事言ってるぜ?」 「あ…眼鏡と同類にしないで。」 細分化したら微妙に違うから、うん、違うから。 「芥川慈郎だC。膝枕してくんね?」 「しますします、させて下さい!」 ジローの頭が膝の上に…髪の毛がふわふわだよー。 なでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなでなで―――。 「忍足侑士や。」 「なんでまた自己紹介してんの?バカなの?死ぬの?」 「さっきからなんなん!?酷い扱いやん!昨日のデレはどこ行ったんや!」 「私の基本スペックはドSだ。お前をドMに染めてもいいかな?」 撫子はキメ顔でそう言った。 「キリっとした顔で言っても無駄や!」 「黙れ眼鏡、答えは聞いてない。」 「ヒネリ潰すで!」 「鈴健はぁ!」 「マァヤの嫁!」 「「イエーッ!!」」 忍足と撫子でハイタッチ。 「仲いいじゃねーか。」 と宍戸。 「勘違いしないでよね。べ、別に忍足と仲良くしたいってなんて思ってないんだからね!」 「ツンデレキター! ……あ、あの!椿崎さん!俺、忍足侑士っていうんだけど!子供はっ…子供は何人欲しい?俺は三人欲しいな。女の子がふたり、男の子がひとりね。名前は撫子さんが決めてあげて。俺ってあんまりネーミングセンスないから。えへへ、どっちに似てると思う?俺と撫子さんの子供だったら、きっと男の子でも女の子でも可愛いよね。それで庭付きの白い家に住んで、 大きな犬を飼うの。犬の名前くらいは俺に決めさせてね。撫子さんは犬派?猫派?俺は断然犬派なんだけど、あ、でも、撫子さんが猫の方が好きだっていうんなら、勿論猫を飼うことにしようよ。俺、犬派は犬派だけれど動物ならなんでも好きだから。だけど一番好きなのは、勿論撫子さんなんだよ。撫子さんが俺のことを一番好きなように。そうだ、撫子さんってどんな食べ物が好きなの?どうしてそんなことを聞くのかって思うかもしれないけれど、やだ明日から俺がずっと撫子さんのお弁当を作ることになるんだから、ていうか明日から一生撫子さんの口に入るものは全部俺が作るんだから。やっぱり好みは把握しておきたいじゃない。好き嫌いはよくないけれど、でも喜んでほしいって気持ちも本当だもんね。最初くらいは撫子さんの好きなメニューで揃えたいって思うんだ。お礼なんていいのよ彼氏が彼女のお弁当を作るなんて当たり前のことなんだから。でもひとつだけお願い。俺「あーん」ってするの、昔から憧れだったんだ。だから撫子さん、明日のお昼には「あーん」ってさせてね。照れて逃げないでね。そんなことをされたら俺傷ついちゃうもん。きっと立ち直れない。ショックで撫子さんを殺しちゃうかも。なーんて。それでね撫子さん、怒らないで聞いてほしいんだけど俺、中学生の頃に気になる女の子がいたんだ。ううん浮気とかじゃないよ、撫子さん以外に好きな男の子なんて一人もいないわ。ただ単にその子とは撫子さんと出会う前に知り合ったというだけで、それに何もなかったんだから。今から思えばくだらない女だった。喋ったこともないし。喋らなくてもよかったと本当に思う。だけどやっぱりこういうことは最初にちゃんと言っておかないと誤解を招くかもしれないだろ。そういうのってとても悲しいと思う。愛し合う二人が勘違いで喧嘩になっちゃうなんてのはテレビドラマの世界だけで十分。もっとも俺と撫子さんは絶対にその後仲直り出来るに決まってるけど、それでもな。撫子さんはどう?今まで好きになった男の子とかいる?いるわけないけども、でも気になった男の子くらいはいるよね。いてもいいんだよ。全然責めるつもりなんかない。確かにちょっとはやだけど我慢するよそれくらい。だってそれは俺と出会う前の話だろ?俺と出会っちゃった今となっては他の男子なんて撫子さんからすればその辺の石ころと何も変わらないに決まってるんだし。撫子さんを俺なんかが独り占めしちゃうなんて他の男子に申し訳ない気もするんだけどそれは仕方ないよね。恋愛ってそういうものだもん。撫子さんが俺を選んでくれたんだからそれはもうそういう運命なのよ決まりごとなんだ。他の男の子のためにも俺は幸せにならなくちゃいけない。うんでもあまり堅いことは言わず撫子さんも少しくらいは他の男の子の相手をしてあげてもいいよ。だって可哀想だもんね俺ばっかり幸せになったら。撫子さんもそう思うだろ?」 「うん、そうだな。ヤンデレキッタァー!江迎ちゃぁああん! だったら…、さあ忙しくなってきたわ忙しくなってくるわ。大盤振る舞いのてんてこ舞いよ。忍足くんったら私の作ったお味噌汁を飲みたいだなんてとてもかわいらしいことを言ってくれるんだから。もう、簡単に言わないでほしいわ、たしかに私の『荒廃した腐花』はそんな風にも使えるかもしれないけど、でも過負荷のコントロールってそこまで簡単なものじゃないんだから。私は志布志ちゃんとは違うのよ、気軽な頼みごとにもほどがあるわ。まったくもう甘えん坊さんなんだから。だけど仕方ないわね、あんな風に頼まれちゃったら断るなんてできないもの。おいしいお味噌をたくさん作って毎朝と言わず一時間おきに届けてあげちゃうんだから。ううん、さすがに一時間おきはやり過ぎかな、一時間半おきぐらいが妥当よね。あんまりやり過ぎると引かれちゃうもんね。何事もほどほどが大事よ、私もいい加減それくらいは学習しなくっちゃいけないわ。あ、でもそうだ、考えてみたら作れるのはお味噌だけじゃないわよね。発酵食品ならどんな食品でも私は作れるはずだわ。ヨーグルトでも納豆でも、なんでもね。貴腐ワインなんかも作れるんじゃないかしら。ああ、貴腐。なんて美しい言葉なのかしら。でもお酒はまずいかもね、ううん、そういう意味じゃなくっておいしいんだけど、私と忍足くんはふたりとも未成年なんだから。大人の嗜みは、ちょっと先を待たなければいけないわね。残念だけど、将来の楽しみが増えたと思えばいいことよね。それに私達はもうお互いがお互いに酔っているようなものなのだから、ひょっとするとお酒は生涯必要ないかもしれないわね。まあいいわ、とりあえずお味噌作りに集中しなくっちゃ。色んな種類のお味噌をつくって、どれがいいか忍足くんに選んでもらおうっと。そうだ、そのときは緊張して長々と喋らないように注意しなくちゃいけないわね。私ったらついついお喋りが長くなっちゃう癖があるのよね。でもこれからはそういうのも控えるようにしないといけないわ。だって私は幸せになりたいんだもの。さあ、できたわよ、最初の一回分。味噌汁っていうか、味噌を呑んでもらうわ。ここに居並ぶ大量の味噌樽を目にしたときの、忍足くんの喜ぶ顔が目に浮かんじゃうな!」 「「アッハッハッハッハッ!自分、よく覚えてんのな!」」 「俺様を無視してんじゃねーよ。」 |
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