青春Destroy | ナノ


097


「……とりあえず、中に入ろう…。」

撫子に気づかれないようにソロソロと部屋に入っていく。
見ると耳からコードが延びていた。どうやらイヤホンで何かの曲を聞いているようだ。

「ねぇ岳人…なんで撫子、何か聞いてんの?耳元で音楽なんてあったら集中できないよね。」

「人それぞれじゃね?」

「そっかぁ…岳人、前に回り込んでみよーよ。」

「…おう。」

二人は四つん這いになって進み撫子と机を挟んだところに位置すると顔をそっと机上に現した。

それでも撫子は自分の世界に入り込みジロー達には気付かない。ジローと岳人はなんとなく撫子がペンを走らせているノートに目をやる。

「「!?」」

そして二人は戦慄する事になる。

使っているノートは真紅に染まり(丸付けをしたら間違いだらけだった)。
その赤はそれぞれ古代文字を象っている(アルファベットが崩れた形になっている)。
手は赤く染まり(赤いインクが手についた)。

二人がだんだんと目線をノートから撫子へと上げていく。
撫子の顔はいつものニヤニヤとした笑みはなく、無表情+目つき悪ッ顔色悪ッ。

「「ギャァアアアアアアア!!」」

ジローと岳人は後ずさり後ろの壁にぶつかる。
そして抱き合うように身を寄せる。

「……………ん?っ!?」

眉間に皺を寄せながら顔を上げる撫子。
目の前に広がるはここ数日封印していた物、つまりは萌えが繰り広げられている。


ク、クールになるのよ撫子!!
私は目の前にあるヤンツンの英語を倒さなければならないのよ!!欲望に走ってはダメ、……でも松永のおじさまが言ってたよなー…人間欲しがればよいのだ。良い名言じゃないか…じゃない!!
我慢だって!!明日からテストなんだぜ?なのに英語がさっぱりピーマンワケワカメなんだぜ?分をわきまえろー!!クールになれクールになれクールになれぇえ!!びっくりするほどユートピアびっくりするほどユートピアびっくりするほどユートピア……。

ぶるぶると撫子も体を震わせる。
撫子にとっては我慢している代償で不可欠な行動だったが、ジローと岳人にとっては恐怖を煽る物以外の何物でもなかった。

「「ヒィっ!?」」

二人はさらに抱きつき合う。
三人とも限界に近い。色んな意味で、
そこに現れた救世主、日吉。部屋に入りジローと岳人の回収へと足を急がせる。

「ピヨシート!!」

「元凶はあなたか。」

「ひ日吉ー!!助けてくれぇ!!撫子が…撫子がハンパなく怖いミソー!!」

「俺は向日先輩の語尾が怖いです。ッォア!?」

ジローと岳人が前から日吉にいきなり飛びつき、バランスを崩して後ろに大きな音を立て転倒。

その音で再び現実に戻された撫子が見た物は、
日吉をジローと岳人が二人掛かりで押し倒し日吉が涙目(後頭部を打った反動で)になっているシーンだった。

「びっくりするほどユートピア…びっくりするほど死んでも良い…。」

……ジロー+岳人×日吉だなんて。
まさか…二人掛かりとは…新境地を見たかもしれない。

死んでも良い、と言い残した撫子はとても良い笑顔で机の上に顔から突っ込んでいった。

「あぁああ!!撫子ー!!死んじゃやだー!!」

「クソクソ、撫子!!死ぬなぁ!!」

「………お二人とも落ち着いて下さい。椿崎先輩は寝ているだけです。」

「「……え?」」

「夜もろくに寝ないで勉強してたんじゃないですか?疲れが溜まってたんですよ、きっと。」

「そ、そっかー。」

「くそくそ!!悪魔にでも魂売ったのかと思ったじゃねーか。」

ジローと岳人はほっとした。

「悪魔って…先輩…。」

「だってよー撫子のノートヤバいことになってたんだぜ?」

「……なんでも良いです。とりあえず椿崎先輩を部室のソファーまで運びましょう。」

日吉が撫子の上半身を起こす。
起こしたあとには例の真っ赤に染まったノートが。

「………これは…怖いですね。」

「でしょー!?」

驚いた後は撫子を背負い、部室のソファーまで運んで行った。
撫子が覚醒するのは練習終了時間である。

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