マリオネットの糸(if)

子荻と双識で取り合い。
零崎がらんかを取りにこようとして。


渡しません、と少女は言った。
黒髪をなびかせ凛と立ち、目の前の長身の男を見据える彼女は薄汚れた廃墟の中にあっても美しい。
対する青年は口元に笑みを浮かべているが、心のうちでは自らが策師の掌の上で踊らされていることを知っていた。
「ですので、どうかお引き取り下さい、自殺志願」
ニコリと笑うことなく彼女は告げる。取り付く島もないと知っていながら、零崎双識は肩を竦めて首を振った。
「いやいや、此方の話を聞いてくれないな。家賊に会わせて欲しいと言っているんだけど、それにこんな野蛮な手段をとるなんて」
「おかしなことを。先に乱暴な手段をとったのは貴方がただというのに。話なんて更々する気はないでしょう」
殺人鬼が話をもちかけるなど笑い話だ。それをお互い知っているから、これは言葉遊びに過ぎない。
自らが優位に立ち、愉悦に浸るための遊戯。
「大将である君が出ているのにあの子がいないのには訳があるんだろう? あの子は、何らかの理由で此処に来られない」
「まるで知っているような口振りで話すんですね」
苛立ちを含んで吐き捨てられたその言葉に硬さを感じ、こちらを睨みつける瞳に敵意以外の澱んだ感情を見つけた。
彼女がどのような目にあっているのか分からないが、恐らく真実も事実すら教えられていない少女に双識は同情する。
ゾクリと背中に走った悪寒すら奮い立たせる材料にして、双識は未来の妹との再会のため獲物を構えた。