K(伏見)続きもの

声が出なくなったヒロインと伏見


変な力に声を奪われてから三週間、私の精神は想像していたよりもひどくすり減っていた。最初の二日くらいは不便だなぁくらいにしか思っていなかったのだが、一週間を過ぎた頃から人とのコミュニケーションが億劫になり誰とも会わなくなってしまった。
そもそも声が出ないこと自体がストレスになっており、自分ひとりのときにも吐き出せない鬱憤というのが溜まり続けていくのだ。
「なんか変わりあったか?」
申し訳ないことに、私の定期検診にはいつも伏見くんが付き合ってくれている。本人に言わせれば「サボりの口実」ということらしいが、それでも本当は、来なくて良いと言うべきなんだろう。けれど、今の状態で伏見くんとも会えなくなったら自分がどうなるのか分からない。
私がまだ普通に生活していられるのは彼のおかげだと思う。人と会わなくなって、家族からも困惑されて持て余されたようなさ私に、事情を知り傍にいてくれる彼の存在がどれだけの救いになったことか。
「ストレインだからな……医者でもどうにもならないか」
分かっていたことだから落ち込みはしない。私の声は治療で何とかなるものではなく、原因となったストレインという変な力を使った人を捕まえることで解決するもの。だから、そのストレインを捕まえるのが仕事だという伏見くんと会うのはその状況を聴くという理由もあるのだ。
「飯でも行くか」
(えっ? ……あぁ、もうお昼か)
お腹が空いてないから分からなかったが、待合室の時計の針は正午を過ぎていた。まさか伏見くんから誘われるとは思っていなかったので動きが止まってしまう。
分かった、と頷くと伏見くんは私が立ち上がるのを待って歩き出した。