K夢(伏見)↓の続き

連れていかれた病院は予想より普通だった。もっと秘密組織のようなアンダーグラウンドのようなところかと思っていたので、ひとまずほっとした。
「終わったのか」
診察が終わり、人の少ないしんとした待合室で待っていてくれた伏見くんのところに戻る。彼は端末から視線をあげて私を一瞥するとだるそうに立ち上がった。
(なんか疲れてるね)
そう言おうとしたが、口から出たのは先程のような息の音だけだった。
結局、声が出ない原因は分からないままだ。
医者によると喉自体に不調は見られないから神経の信号がどうたら、ということらしい。難しい話は分からないが、とりあえず治してもらえないことは分かった。
来週の予約はとったし、今日はさっさと帰ることにする。
「家まで送ってやる」
伏見くんがいきなりそう言うので驚いて顔を覗き込んだ。目を丸くした私を、少し苛立っているような彼はじっとりと睨み付けてくる。
いいのかな。声が出ないだけだから一人でも大丈夫なんだけど。そのことをどうやって伝えようか、端末、それより手間が掛からないのは筆談だ。
「なっ……!」
些細なことに筆記用具を出すのも面倒だったので、彼の手を借りその掌に人差し指で文字を書いていく。
びっくりした伏見くんに振り払われそうになったが、私が何かしたいのか伝わってからは彼もじっと掌に視線を落としていた。
『いいの?』
「あぁ……ただの口実だ、サボるための」
(それこそいいの……?)
つっこみたかったけれど、さっさと先に進んでしまう伏見くんを止める術もないので大人しくついていくことにした。
色々あって疲れたし、今日は帰って早目に寝よう。